年々彩々
」のレビュー

年々彩々

秀良子

圧倒的な秀先生のチカラを見せつけられた

2022年3月14日
思ったよりもかなり沁みました。
心を揺さぶられるストーリーと物語を語る技術の高さに、圧倒的な秀先生のチカラを実感しました。
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「金魚すくい」は落語「貧乏神」をほぼ踏襲した作りです。
元はコミカルで笑いっぱなしの上方落語を、人情はそのままに、切ないBLに仕立て直しています。
金魚の使い方が秀逸過ぎて泣けます。
貧乏神の着物が、死神になった時に黒絵羽に衣装替えしているのを見て、死も実は人生の一大イベントだったわ、見方によっちゃ目出度い事かもしれない、と改めて考えさせられました。
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「デラシネの花」は、もう発想自体が素晴らしい!!
読む前はあの「寿限無」のどこをどうしたらBLになるんだろう?と訝しんでいましたが、まさかご本人が現代まで生きている設定とは!まさに名は体を表すです。
BLではお馴染みのバンパイアもの等、人と寿命の長さが全く違う故のやるせなさを描いています。
その中でたった一人の確実に自分より長く在る存在、「金魚すくい」の時よりも色気マシマシの死神が相手役です。
死神相手に欲情したり嫉妬したり、挙句の果てに愛しちゃったりしています。
途中で死神は寿限無に会う事を避けますが、なぜそうしたかの気持ちがまた切ない。なんだよ、両思いじゃないですか。
神様にも人らしい気持ちがあるところが、日本の神さまだな〜、これキリスト教やイスラム教じゃ成立しないわ〜と思いました。
「デラシネの花」を読むと、「金魚すくい」の描かれていなかった部分が透けて見えてきます。
そこがまた素晴らしい構成です。
そして人ならざる者である死神の気持ちに思いを馳せて苦しくなります。
物語の締めと落語のオチを、意味が全く違うのに完璧にリンクさせています。
素晴らしい閉じ方に敬服です!!
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タイトルの「年年彩彩」が、年年歳歳に掛けているところも泣けます。
人の世の変化を自分だけが変わらず虚しい思いで見てきた寿限無の人生が、事もあろうに死神によって彩られた、ってところが余りにも切なく美しいんです。
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余談ですが、落語ネタと言えば◯和元禄落語心中が代名詞となる程有名ですよね。
アニメで石田彰さんが披露した落語「死神」にはビックリしました。
声優さんってホント凄えぇぇえ!
もちろん圓生や小三治の死神は絶品です。
本作の死神が寿限無に会わないと決心した場面は落語「死神」の世界を持ってきていました。
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