北北西に曇と往け
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北北西に曇と往け

入江亜季

風がいつも吹いている感じがする

2022年4月12日
寒さも感じる。
自然の凄さを見せつけられるかのような風景(天候)描写の物量にあって、アイスランドの観光案内のようであって、絵力の前に、思い出したように時折挟み込まれる謎が放置されて少しずつ増えていく。
ひねた17歳男子が主役だが、学校生活とかけ離れているせいか、それに、自分で稼いでいるせいか、幼さの欠片も無い。ただ、恋愛感情を覚えることを大人であるかどうかを測る物差しとするなら、彼は発展途上とは言える。女性は登場しても恋愛要素が甘く絡んでこない為、余計、厳しい自然描写と相まって、ストーリーのほうも、荒涼とした短い草しか生えてない土地に、岩がゴツッゴツッと出てくる印象。横読みで!
小物類の描写なども味があって写実的、それでいて筆致に入江画伯といった趣の統一感が感じ取れて引き込まれる。絵を眺めてるだけで隅々まで作品を鑑賞した気分に包まれる。
だが進まないで脇道寄り道運転ばかりと感じるストーリーが、全体量の何分の一程度の少なさで挟まれてくるがちょっとダークで奇怪な展開により、突然別の視界を見せられていく。
これは、果たして私は読み進めて行けるだろうか。
このたまに現れる不可解で私の恐怖心を煽るエピソードがもっと姿を晒して行ったら、耐えられるだろうか。

既刊5巻は全て読むが、続巻を読み続けるには少々覚悟が要りそうだ。(現在4巻読了直後)

語り部分の文章が光って、また、作者自身による解説の言葉も素晴らしいので、寧ろ物語の超能力的側面は脇に置いて、アイスランドへ真っ直ぐ引き込まれる。

人物の存在感にも、悪くないクセが前面に出され、肉感的ビジュアルで実在感を出してくるので、居そうもないのに居るかもしれないと錯覚させる強い説得力。身体の描写やポーズに、登場人物達の自信?みたいな強さが溢れてる。それは本作のとても大きな魅力と思う。
私には思わせ振りな仕組まれた謎の断片に、積極的に知りたい気持ちが今は少ない。このジャンルを好きな人には、ゾクッとする面白さもきっとあるのだろうけれど。

5巻目読了。アイスランドのラキ山大噴火と浅間山大噴火とは同じ1783年(天明3年)に発生だという。欧州と日本にそれぞれ大飢饉を起こした大規模降灰への言及は、そのまま大地のエネルギーという、自然の脅威としては最大級の畏敬の念を共感させ、本書の空気が伝わる。

食べる場面にコマを随分使うんだな、と気になる位、多く長い。
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