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」のレビュー

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水谷フーカ

世の中捨てたもんじゃないよと思わせる名作

ネタバレ
2022年6月5日
このレビューはネタバレを含みます▼ 読みホから。BL味ほぼありません。
こんな名作が読み放題に埋まっているんですね!
フォローさま方のレビューのおかげで出会えました。

まず、帯の文言だけで想像がパァーッと広がります。
そのように生まれてきた子どもがどのような目で見られ、どのように扱われ、どのように育つのだろう?と。
鉛筆書きに2色刷りの黄緑色が、切なく、悲しく、美しいのです。
それは、寄り添う友人(変味の飲み物ばかり買う友だちのために自分は毎回お茶を買うような子)のさりげない優しさと。
「物珍しさ」を自然に自分のテリトリーに加えて、明るく楽しげな先輩と。
「特殊」の壁を超えて真っ直ぐに好いてくれる女子と。
欠落して残った記憶の中は、たくさんの楽しい事で満たされているといいのに。
ここでは描かれていないけれど、絶対有るはずの辛いことは残らなければいいのに。
美しくて悲しくて切なくて、涙で読む目がぼやけてしまいました。
私が望むように、作中のモブ(他人)の中にも、きっと彼の悲しみを思い幸せを願う人が何人もいるでしょう。
目を引いてしまうのは仕方のないこと。
初めて見たわけでなくとも、毎朝一緒の電車に乗り合わせたとしても、絶対見てしまうに違いありません。
けれど蔑んだり憐れんだりする表現は一切ないので、彼らの心中は「どうか普通の日常が続きますように」と見守っているかのように見えます。
表紙には色が付いていないのが哀しくも優しい皆の気持ちを代弁しているようです。
行間の多い、むしろ行間を読ませる作品なので、読者の経験値によって感動の大きさが左右されるお話だと思います。

同時収録の短編は、ほのぼの系と見せかけて怖さがピリリと効いた、こちらも秀作です。
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