いつまで代わりでシましょうか【単行本版】【電子限定特典付き】
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いつまで代わりでシましょうか【単行本版】【電子限定特典付き】

成瀬一草

身代わりから最愛の人になるまで

ネタバレ
2022年8月14日
このレビューはネタバレを含みます▼ 昼間はキチンと仕事をしている大人の男が、好きな相手にだけ違う顔を見せる姿を遠くから見つめるのが好き。
そんな自分にとって、学生時代から片思いした学友の結婚式を、自分の葬式だという弁護士圭の重いモノローグが気になり読み始めた本作。

弁護士という仕事には他人の喧嘩を代わりに闘う、知的だけど勝ち負けで決着をつけるストレスフルな仕事という印象がある。とりわけ、圭の場合、若いうちに弁護士になり、早くから先生と呼ばれアドバイスを求められて答える生活を送る中、ああいう真面目で慎重な性格が作り上げられていったんだろう、と思わせるビジネスシーン…交渉相手の会社で冷静な表情で依頼者の言い分を伝えてながら、表情は変えずに持っている封筒を握りしめる場面は内心のイラつきを表している…が描かれていたりしてその人物像が浮かび上がってくる。

そんなふうに、仕事中は、他人に代わって喧嘩をするような攻めの姿勢を取り努めて冷静に振る舞っている人が、恋愛面では学生時代から15年もの間、1人の人を思い続け、結婚式でそれまでの人生に終止符をうち、いわば未亡人のような姿を見せているところで、行きずりの相手に身代わりでいいと攻められると、防御もできずに抱かれ泣きじゃくる姿のギャップ…あー、良い。エチシーンにページが割かれているので、ビジネスシーンを脳内補完したのが役に立ち、悶えることこの上ない。

対する攻めのSE穂高は、勘がいいミステリアスな年下の男として現れ、次第にその実像が見えてくる。穂高のタトゥーは圭から見れば自由の象徴で、堅物の圭を恋愛面でリードできる程よい強引さと少しからかうような物言いが良い。圭にとっては、その軽妙さがちょうどいい感じで、穂高が圭のことを甘やかしていき、お互いかけがえのない関係になっていくにつれ、圭が甘い表情になっていく姿が拝めて、幸せな気持ちになる。

単行本のタイトルは、圭が最後にモノローグで「穂高の代わりなんていない」ともう誰かの代わりなんかじゃない、と言うようになるまでを攻め視点で表現したものなのかなと。また単話では受けの圭視点で進む内容と同じく受け視点のタイトルにしたのを、単行本ではラストまで読んだ後タイトルを振り返る作りにしたかな、と想像した。

初読み作者様でしたが、堅い仕事をしている受け様のギャップ、途中まで緊張感ある構成、多幸感あるラストが良かったです!
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