夜明けのリトルマーメイド【電子限定描き下ろし付き】
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夜明けのリトルマーメイド【電子限定描き下ろし付き】

上野ポテト

繊細なところを突かれてカタルシスを得た

ネタバレ
2022年10月26日
このレビューはネタバレを含みます▼ 読んでしまったら語りたくなる作品だなぁと思いました。読後、錚々たるレビュアーさん方のレビューをうなづきながら拝読致しました。本編とレビュー両方で感動できる、それはそれはステキな作品だと思います。

作品内容にある通り長い長い片恋の物語です。
せっかちにコトが進むお話ではなく、ずっと抱き続ける思いと共に生きる辛さと温かさを噛みしめながら読み進めました。
片想いの相手に偶然に会えないかと、このお店に入ったら居るのではないか?あの角を曲がったら出会わないか?この電車に乗ったら…と、運命任せで願った過去のヘタレな自分とかぶってしまい、少しづつ打ちのめされて泣きたくなりました。
行動を起こさなかった理由が漠然としていて、だから尚更に行動に移せない。
そんなジレンマとやるせなさを思い起こさせられました。
こんな稀有なところを突いて引き出すとは、さすがはポテト先生です。他の作品ではなかなかこうはなりません。

人生を一本の長い線で表すとしたら、他人との邂逅はほんの点でしか有りません。
片恋相手とのその「点」を何度も何年間も反芻して気持ちを確認し続けていたら、実は相手もその「点」を心地よい時間だったと思っていてくれた。
その点が、線として長く寄り添う日が来るとは…運命だけでは来なかった未来への行動をようやく実行できた時、過去の自分も報われたように感じてしまいました。

さて、主人公マコトのモノローグで彼とは他人じゃないほどの親近感を得ましたが、お相手のノブアキはいったいどういう人物でしょうか?
察しは良いけれど感情の発露が不得意で受動的な優しい人だと思います。
マコトが願ったコトは叶えてくれる。もしマコトの片恋の途中の段階で付き合って欲しいと願えば叶っていたかもしれません。マコトがそう思っていなかったからこその距離だったと思いました。
マコトが自らがどうなりたいかを知るには必要な年月だったのでしょう。
描き下ろしのタイトルが「その後」ではなく「途中の日」という言い方も嬉しい幸せでした。

嬉しかったら涙が出てしまうような感受性豊かなマコトと、それを汲み取ってあるがままを慈しむノブアキ。マコトが願い続ける限り2人はずっと一緒なんだろうなと思います。
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