スモークブルーの雨のち晴れ
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スモークブルーの雨のち晴れ

波真田かもめ

ライフステージの転換点で寄り添う2人

ネタバレ
2023年2月18日
このレビューはネタバレを含みます▼ ある程度人生を積み重ねた読者であれば、きっと何度かライフステージの転換点を経ていると思う。特に女性の場合、就職、結婚、出産、介護などにおいて、人生が自分軸ではなく、他人軸ー評価や時間の使い方において、自分のしたいように振る舞うことができなくなることーで、生きていかざるを得なくなることが多いと感じるのではないだろうか。
そんなライフステージの変化を経た上で読んだこの作品は、しっとりとした感情へのフィット感が抜群で、今まで読んだ波真田先生の作品の中でその良さを最も感じた。共に優秀な元MR。それを辞めて黒髪の久慈は老いた父親から翻訳を学び子どもの頃に満たされなかった父親と人生を共にしていた…吾妻は仕事に追い詰められ、こちらも一度ドロップアウトしたところで再会。燻っていた熱がちらちらと見える関係の変化。時々過去を振り返るシーンを差し挟みつつ、ライフステージの転換点を経て、力の抜けた、余裕がありそうで、内に熱を持った久慈の吾妻に向ける視線とベッドシーンの絡み方が色気に溢れて良い。英語翻訳の話題も監修されているだけあって、なるほど…と思える水準なのもこの作品の満足度を上げている。
突然で申し訳ない。自分は、ホモソーシャルなシステムの中での生きづらさという点において、女性とゲイには共通点があると考えてBLを読んでいるおそらく少数派なのです。ホモソーシャルは、ミソジニー(女嫌い)とホモフォビアを共通の価値観とすることで男同士の絆を高め合い、共有している。女性と同性愛者は、ホモソーシャルな関係から排除ないし無視される関係として共通点があるのだ。
そんな社会で働こうとすると、女性も名誉男性的な働き方をせざるを得ない場合がある。しかし、そういう働き方をしながら考えるのは子に負担になっていないか、職場に迷惑をかけていないかということ。もう辞めた方がいいのでは、と思いながら辞める勇気もなくてギリギリの綱渡りをしてなんとか人生をやり過ごしてきたのだけれど、久慈と吾妻がライフステージの転換点を経て寄り添い、そんな社会の価値観とは違う自分軸で生きる力を取り戻していく姿がまさにスモークブルーのように落ち着きがあり美しい。ああ自分も自分軸で生きてもいいのかも。そんなことまで考えた。そのような作品にBLジャンルで出会えるとは、実に感慨深い。大人向良作*6巻、久慈の激重感情の原点を知り静かだけど熱い熱を感じた
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