52ヘルツの共振【電子限定描き下ろし付き】
」のレビュー

52ヘルツの共振【電子限定描き下ろし付き】

早寝電灯

52ヘルツのクジラ

ネタバレ
2023年2月25日
このレビューはネタバレを含みます▼ 物語はかつて同級生だった高校教師の白根と、旅行会社で働く清成が、修学旅行の打ち合わせで再会するところから始まります。
タイトルは、52ヘルツという非常に高い周波数で鳴く世界で唯一のクジラ、通称最も孤独なクジラから。
これだけでも十分想像力をかき立てられます。
誰とも共鳴せずとも孤高に生きているかのようなクジラの姿と、そのクジラを羨ましく思い、ともすればどこまでも落ちて行ってしまいそうな自身の性に流されず、手綱を取って理性的にあろうと努める主人公。この造形をした早寝先生のインスピレーションにまずは脱帽。
そう、武史先生こと白根の人物造形が、本当に素晴らしい。
一人っきりで生きていくつもりだったのだろうか。そんな人物像にしたのは何故と最初は思ったけれど、迷いなく凛とした立ち姿、時折のイメージで舵を取る姿を見て、こんなにかっこいい人、これまでいなかったなと思い、すっかり虜になりました。
一方の清成の方も、自身の性を持て余しながらも、自らの足で歩きたいと考えている。
高校時代に出会っておそらく互いに好意を抱くものの、それは自身の性への肯定感をお互い知らずのうちに与えられたと感じている、淡い感情。でもきっと、心の拠り所になっていた強く特別な感情でもあったはず。座り込んで、52ヘルツじゃなくてよかったと呟くシーンが、それを物語っていると思いました。

頭が固いためか、オメガバースという設定は理解しても、これぞと思う作品にはこれまでほとんど出会えておらず、どちらかというと苦手です。(特別好きな作品は二作ある)
どうしても都合の良いだけの設定に思えて、その都合に「乗せて」描かれた作品にはいつもザラつきを感じます。
それらとは決定的に違うのは、自分自身であろうとする姿に互いに惹かれ合う二人が描かれていたり、教育の現場でバース対応の研修を受けて働く姿など、地に足がついていてリアリティを感じるところ。
そこへ逆にこの特別な設定を「添える」だけで、こんなにも優しく自然で、温かい作品に仕上がっている。
作家先生の手腕によっては、飛びきり萌える作品になり得る設定だということを、今回認識しました。

好きなところ……
入り口の靴下エピソード。
共振を表す波紋。
ずっと理想だった知っているだけでいい存在が、もっとも遠い今になってようやく少しだけ近いというモノローグ。
巣作り。
…最高か…
いいねしたユーザ19人
レビューをシェアしよう!