鬼は笑うか
」のレビュー

鬼は笑うか

木村ヒデサト

scene.4までなら星5つ

ネタバレ
2023年5月23日
このレビューはネタバレを含みます▼ 180ページ。
とにかく痛々しい。まだ中学生、目の前の事しか考えられず、うまく助けを求められないし、相手のSOSもキャッチできない。何を憎むべきかもわかっていないし、真実を告発するにも臆病。問題は突然に外部の力で解決(と言うか消滅)する、徹底的な無力。子供の万能感からくる「自分のせい」と、そう思わなければ自我を保てないほどに周囲の大人に恵まれていない「自分のせい」。「鬼が笑う」つまり「来年(将来)の事を考える」ことができない刹那性が中学生の苦しさをこれでもかと突き付けて素晴らしい。
大人の描き方は少々記号的。「いい大人」としての小椋先生と「悪い大人」としての山下先生(先生を付けるのも不快)。著者自身があまり良い大人と接する機会がなかったのではないかという描かれ方です。まっとうな大人を目指して生きている人間としては、物語からは退場した小椋先生の、今後の苦しみを思うと戦慄しますね……山下が柏瀬にしたことを知らずにいられるとは到底思えないので……。
〜〜〜〜〜
scene.4までが中学時代で、そこから先は唐突に3年後に飛びます。
キャラクターに「救済」を与えるために必要だったと思いますが、その目的のために齟齬が出ている気がします。なんか、星谷くんが腑に落ちないんですよね。scene.4まででは、柏瀬に同情していたのとは違っていたと思うし、両親が理解あり過ぎというか絵に描いたような「子供にとっての理想の大人」になっていますが、4までではそういう親がいる子の印象はありません。柏瀬を幸せにするために考えられた展開で、一緒にいる理由を思って泣くシーンとかは良かったですが、完全に別の話に見えました。別の話として見れば、これはこれで、先の事を考えられるようになる鬼が笑ったエンドで良かったです。
(また、雑誌『Fig』のVol.36に、番外編が掲載されているようです)
〜〜〜〜〜
そこで私は「本来の物語はscene.4で完結している」説を推したい。これは、私がメリババドエン・ドンと来い、な性質の闇好きだからという訳だけでは無く、明確な演出的理由があり、物語の序盤の国語の朗読、あの演出から始まるのならば、ラストは4の最終がピタッとハマるんです。
「下人の行方は、誰も知らない。」のですから。
いいねしたユーザ2人
レビューをシェアしよう!