エクストリームウラメシヤ
」のレビュー

エクストリームウラメシヤ

佐岸 左岸

読む人によって見え方が違うのが面白い

ネタバレ
2023年5月24日
このレビューはネタバレを含みます▼ 正直言って難しい。色んなモチーフが、意味を持っているのかいないのか。会話からは読み取りにくい2人の関係性。一度はレビューを書くのを諦めたけれど、自分なりに区切りをつけない限り、この作品が頭から離れない。

2人の関係は、やはり恋人同士なのだろう。黒服の彼は自分ばっかり好きで、重いと思われたくなかった気持ちを打ち明け、先輩は、愛情に独占欲は切り離せないと説いたりしているけれど、【A】ラストからは、黒服君は既に事故死してて、月夜の午前3時にだけ公園で、生前喧嘩をした後誤解したまま最期を迎えてしまった後悔が2人を引き合わせているように思える。先輩の動揺のなさからは、何度か同じやりとりを交わしているのかなと。そして、黒服君が去る背中を見つめ続ける先輩の視線は、その先が事故現場であることを物語っているよう。先輩が後悔の涙をおそらく事故現場で流した後、裸足になり、白猫となった猫と共に涙の粒で作られた道を通って辿り着いた先は【B】の冒頭の場面となるのでは。ただ、その世界は、その後の黒服君の「来世まで結婚する?」という台詞、先輩の生まれ変わる前に殺すという強烈な独占欲を示す台詞から、現世でもなく来世でもない、生まれ変わる前の時と時の狭間にある2人だけが共有できるパラレルワールドのような空間なのではないか。【B】に時計がないのは時を刻むことのない空間であることの象徴のように思える。先輩が【B】では顔を伏せたのは現世と同じ展開にならないようにと祈ったのかなと。黒猫は現世ならぬ者と引き合わせる役目を担うのかも。
そう考えるまで、2つの作品の解釈に頭を悩ませ、まったくBLらしい萌えやLOVE要素を感じられなかったのに、一見クールな先輩が、進まない時の中でだけ会える現世にいるよりも、黒服君を独占するために自分自身も現世を捨て、2人だけでいられる閉じた世界にたたずむのを選び、結果祈りが叶って黒服君が元の姿に戻ったのかな、という結論に辿り着くと、それが何ともBLらしく、しっくり来るように思えるのです。ようやく萌えたと言えましょうか。

それにしても、AとBで、ラスト3頁以外に午前3時から動かない時計があるかないかも違うのに、ミスリードな「(注意)」の記載。これも読み手に思い込みを与えて、生まれる違和感を楽しむための仕掛けなのでしょうか。読む人ごとに解釈が違いそうな本作。何とも味わい深かったです。
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