その世のどこか、蒼天のゆりかご【ペーパー付】【電子限定ペーパー付】
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その世のどこか、蒼天のゆりかご【ペーパー付】【電子限定ペーパー付】

鯛野ニッケ

現代に通じるメッセージ性に感動

ネタバレ
2023年5月28日
このレビューはネタバレを含みます▼ その世のどこか、シリーズの中で、好奇心に溢れ、俯瞰的な視点で事態を動かしてきたシンと、その従者リアの物語。これまでの2作と比べ本作には作者からのメッセージ性を感じ、そこに感動しました。

まず感じたのが、リアの心情の切なさ。
リアが四六時中、身体も意識も捧げてきたシンに、劣情を抱き、抱く情景が頭をよぎった後、見るようになったシンを殺す夢。これは、同性愛が禁忌だから、シンが自分のモノになることはない、だったらその生命を奪ってでも自分だけのモノにしたいという、2人で歩む未来など決して思い描くことができないからこそ生まれた深層心理が、衝撃的な夢となって現れたのかなと。が、どの夢を取っても、2人は全裸。夢の中で実は2人は愛し合っていたのでは?リアが起きた時にその部分は忘れてたのかも。そう考えると、その後のリアの自決をもって心中の成就となり、満ち足りた感覚が残ったんでしょうね…。リアは自分が幸せになっていいなんて思えず、シンに指摘されるまでその感情を思い出せなかったのかなと想像すると深層心理の中でも自分を責める姿に胸が痛みます…。夜の数だけシンを(夢の中で)抱いていたのかと思うとそのムッツリぶりに身悶えしますが。

その後に連なるシンがお前の心はお前のものでいいんだ、と呟くシーンは、その前の国によって同じことが是とされるか、非とされるかが違うことを知って、ホッとした、というシンの胸中や、象徴のようなゴートの存在と重ねると、シンの言葉がまるで諸外国よりも閉塞的雰囲気の漂うこの国に対する鯛野先生からのメッセージのように感じて一番ジーンと来ました。
リアの胸中だけ考えたら、シンが自分を愛して良い、と赦しさえ与えれば、それで十分なところを、敢えて価値観の多様さに触れさせ心のわだかまりまでなくし、対等のパートナーとして位置づけようとするシン。もはや鯛野先生の分身のようにすら見えて感動的。世の中の様々な人達が、存在を否定され、悲しい思いをすることがない世界になりますようにという先生からのメッセージが聞こえる気がする素晴らしい作品でした。*シンの「お前の子を…」の下り、殺す夢を見るのが耐えられないリアの為シンが手放す決意をした直後なので、自分が女だったらそうならずに済んだのか?自分の存在がリアを追い詰めたのでは?という気持の現れかなと。リアはそんな言葉求めていないのにね。あぁ切ない…
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