わたしたちは無痛恋愛がしたい ~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~
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わたしたちは無痛恋愛がしたい ~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~

瀧波ユカリ

ほど良いリアルさを描くだけではない絶妙さ

2024年4月29日
とあるライターさんに「今を生きる私たちの人生観に影響を与えるかもしれない作品」と紹介されていたのがきっかけで読み始めました。
登場するのは、クズ男から抜け出せない裏垢女子・みなみ、つい人を構ってしまう世話焼き女子・ゆに、昇進しながら周囲に気遣いし過ぎる女性上司・赤井川さん、心に闇を抱えたインフルエンサー女子・うずらちゃん…と、個性豊かな女子陣。
表向き社会に合わせている彼女らが、裏垢や黒いコマで明かす深層心理の描写が鋭くて、読んでいる間、「あ、日頃、BLを壁や天井と化して読んでいるのに、この作品では若いころの自分や今の自分が、登場人物の誰かに分散して投影されている…!」と感じて、夢中で読んでいました。

あるよね、「一般的な幸せ」=「自分の幸せ」と思って、それに当てはめて生きているうちに、なにが本当の幸せなのか目をつぶってしまうことが。
おかしいな、と感じても、「そんな風に感じているの、自分だけなの?」と思って口に鍵をかけてしまうことが。

結構、リアルな「どうして自立したイイ女がクズ男にひっかかるのか?」問題、女子同士を分断しかねない恋愛観の違い、DV、パワハラetc…が取り上げられている。だが、それらへの共感や分析だけで終わらないのが本作の凄さ。傷ついた彼女らが、連帯し、痛みを言語化し、男と女の間に生まれてしまうすれ違いに立ち向かっていく様は痛快で、確実に読み手をエンパワーしてくれることに、感動すら覚えてしまうこと、この上ない。男社会で育ってしまった男達の思考回路を描くだけでなく、フェミおじさん・月寒さんの存在も癒しそもの。

まだ未完だけれど、黙っているだけでも、文句を言っているだけでもない彼女らに、私は確実に勇気づけられ、そうだよな、下駄を履かせてもらっている彼らだって履かせてもらっている下駄の分だけ無理しているのかもしれない、とフトコロが広くなった気さえするのです。

閉塞感を感じるリアル社会に風穴を開けてくれる作品。現実社会と向き合う作品を読んでみたくなったときに、是非。おススメです。
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