華の碑文 世阿弥元清
」のレビュー

華の碑文 世阿弥元清

杉本苑子

電子化に感謝です。

ネタバレ
2024年6月15日
このレビューはネタバレを含みます▼ 学生時代に読んだ時は、ただ宿坊が恐ろしい所だと(興福寺)本当に酷い所だなと、そればかりでした。世阿弥という青年が能という世界を後世に残そうとする姿を読むのが精一杯で、当時の私にはそれ以上の理解はキャパオーバーでした。

芸を売る卑しい存在といわれていた結崎座が将軍 義満の寵愛を受け芸術にまで昇華していく世阿弥の物語は、今読むとタイトルそのままだなと。また、自身の遠い記憶を辿ると確かに昔の人たちは芸の人は表玄関ではなく裏手から出入り…と言っていたなと。樹木希林さんもある番組で京都のお宅を訪問された時、表じゃなく裏から入られ、表に周って下さいと、慌てて家の方が案内されていたのを思い出します。

そして芸を芸術、芸人が芸術家になるとはどういう事なんだろうと思うと世阿弥の美しい容貌だけでは無理で、生き方に華がなければ公家までを魅了する事は難しかったのかな?と。
その様な生き方とは何だろう?と思うと、その道の責任意味の自覚なのかなと。舞が好きだからと考え舞い、舞台を降りて稚児勤めをするだけでは芸の人。彼は舞台に立つ事稚児勤めの責任等、向き合い方が他の稚児とは違っていたのかな?と。才能や運もあったのかなと思いますが、それは優秀な経営者の面もあって、だから後世に観世流を残す事が出来たのかなと…。

兄世阿弥を弟 四郎目線から語られるこの物語は何か講談師の語りを聞いてる様な、惹き込まれてその世界から離れ難いという感覚で…。絶版になっていたこの作品がたまたま電子化された事を知り、懐かしくまた手に取りました。出来れば紙で触れたいなと思う程でした。

女性作家が男性の世界を書く事の意味を思うと、女性だからか逆に男達だけの世界を美しく見る事が出来るのかな…と。
この作中の世阿弥は誰にも心を開かないのですが、(妻にも兄弟にも…)あれだけ愛された義満にも彼は演じていたのかな?と。幽玄という義満好みの生のない美しい世阿弥を彼自身艶も滲ませ、義満と接していたのかな?と…。

四郎がどの様な気持ちで兄の稚児勤めを見送り、迎え、兄を知りたいと見ていたのか。何も語らない兄。ただ一度だけ自身の事を話したのが、幼い頃勤めた宿坊での稚児勤めの酷さ(でも、ここから彼の人生は始まったのかなと思うと)

秘しれば華、初心忘るるべからず…世阿弥の言葉は読み終わって思い返すと重く耽美です。華とは観音様の喩えもあると…
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