その世のどこか、蒼天のゆりかご【ペーパー付】【電子限定ペーパー付】
鯛野ニッケ
このレビューはネタバレを含みます▼
『君香』『体感』が響かなかったため相性がよろしくないのかと敬遠していた、ニッケ先生渾身の(暫定)三部作。
よかった……
話の進め方が面白く、一部と二部で命懸けの恋を魅せてくれたサブカップルがメイン(リア×シン)を引き立てる構成になっています。
はじめは「シンじゃなくてムスティア×ノネ??」「えっ、今度はターキア王国の訳ありカップルに首を突っ込むの?」なんて混乱したりもしましたが、すべてはこのリア×シンに続く暗黙のうちに仕掛けられた伏線だったのです…
『その世』は同性愛を異端とする世界線。どうしても悲しみや苦労は絶えませんが、作中唯一の根明キャラといってもいいシンの探究心が未開の価値観を切り裂く様が小気味良い。
シンは王子様で対面する問題も国家レベルなので、公人としての態度と私人としての言葉を分けて考えないといろんな場面で「?」が浮かぶことに。
あちこちを飛び回る“シン“が自国の文化に寄与したい王子であるなら、「産んでやれたら…」のくだりこそがいわゆる普通を気にしてしまう生身の“シン“だったのではないかなと思いを馳せる(政治に携わる王族は耳にピアスを開けるんですが、左耳は国に捧げ、右耳はリアに捧げているところからも公私を分けている感じが見て取れる)。
この作品を読みたいと思えたきっかけは一作目の『地図にない国』、上目遣いの印象的なムスティアの表紙。動画ではサムネが大事なように、表紙もまた購買意欲に大きな影響を与えるんだな。
三部総じて重厚なストーリーに丁寧な心理描写。
お見事でした。
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