昨日まで名前も呼んでくれなかった公爵様が、急に溺愛してくるのですが?
三月叶姫/whimhalooo
このレビューはネタバレを含みます▼
一巻の前半ではどうやら死に戻ったらしい公爵アレクシアの奇行ともいえる妻への溺愛ぶりにやや辟易してしまいますが、後半ではその溺愛の理由が明らかにされ、むしろ胸が痛みます。またこのアレクシアのようにどれだけ強い立場にあっても、病気や事故、失業などで誰もが穴ぼこに落ちてしまう可能性があり、そうした人に対し、自業自得だ、自己責任だと石を投げつけるかのような周囲のあり方が現代社会の縮図のようで、社会的弱者の目線から考えるきっかけを得られるかも知れません。
実は、こうしたやり直しの物語を読む度、少し羨ましくなります。現実には一度発した言葉や下した決断は取り消すことはできず、どこまでもその責任を負うことになる。そうしたことに大抵の場合は無自覚で、後になってその重大性に気づくことになってしまう。相手に向けて放たれた言葉は宙を漂い霧散するのではなく、必ず相手に届いてその心根に残るもの。だから取り返しのつかない今を生きていることに自覚的であり続け、慎重に言葉を選び、誠実に、心を尽くして考えを伝える努力をし続けなければ、あっさりと大切なものは失われ深い後悔の中生きることになるからです。
明日も今日の続きがあるとは限らず、いつ、大切な人との別れが訪れたり、言葉を伝えることができなくなったりしても不思議ではなく、今、目の前に大切な人がいて、自分の想いを伝えることができると言うことは巻き戻しのできない私たちにとってもじつは奇跡的なことなのだとアレクシアの「愛している」という言葉が示してくれています。
二巻以降も物語は続きますが、ひとまず一巻だけでも納得のいく物語となっています。様々な示唆に富んだ作品です。
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