遥か遠き家
」のレビュー

遥か遠き家

八田てき

得られなかった温かな家庭という蜃気楼

ネタバレ
2024年12月27日
このレビューはネタバレを含みます▼ 90年代のアメリカ南部を舞台にした物語。生まれつき血液の病気を患う17歳のアランは狂信的なカトリックの両親の下で厳しく監視され、ちょっとしたことにも懲罰を受ける生活をしています。そんなアランが、街で働く流れ者の青年•ヘイデンと知り合います。恐らく二度と会わないだろうアランに、ヘイデンは普通なら話さない自分の育った家庭のことをちらりと話します。そしていつか行きたいメキシコの海の話をして絵葉書をくれるのでした。他の人にはわからないだろう苦しみを背負う二人は行動を共にするようになり、ついには一緒に街を出ます。自分に都合良く神を振り回す横暴な父親からの愛を求めるアラン、DVの挙句母親が父親を殺そうとしているのを知りながら止められず、結局その罪の意識で母親が堕落して死んでいったことも自分の罪として背負うヘイデン、二人は得られなかった安らぎをお互いに見出すのですが、旅の途中で関わった娼婦の死から追われる身となるのでした。ロードムービー的ストーリーに緻密な背景、豊かな表情が高い画力で描き出されます。普通なら環境に痛めつけられて汚れてしまうところをそうならずに苦しみ続ける二人の魂の清らかさが痛々しいです。捨ててきたはずの「家」の呪縛から離れられない、あったかもしれない、あるはずのないホームを求める姿は究極に不憫で、重いのが苦手な方には向きません。あらゆる過去の記憶を持たない輝く海が、二人を大らかに優しく受け止めてくれたことを願います。
いいねしたユーザ3人
レビューをシェアしよう!