山小屋にて
」のレビュー

山小屋にて

菅辺吾郎

誰だって不完全

2025年3月7日
職場ではパッとしない人間が他の分野でなら人並み以上に活躍できる場合がある。
本作に登場する山本はまさにその典型で、小屋で凍死寸前だった熊飼を助けられる程度にはソロ登山のサバイバル術を心得ていた。そんな山本に助けられた熊飼は逆に仕事はできても登山となれば素人で、自分を見捨てず手厚く介抱してくれた山本に対し尊敬と???な感情を抱くところからこの物語はスタートする。
連絡が取れず一期一会で終わるかと思いきや、山本の同僚が招いたトラブルをきっかけに同じ会社の統括部から熊飼が派遣され、エリートとペーペーという形で2人はまさかの再会を果たすことに…そこからすぐさま恋に発展するかといったらそんなこともなく、劣等感を軸に話が進んでいくところが面白い。だって劣等感ですよ?なぜ先生はこんなにキュンキュンしないテーマを採用したのか…なんてことは1ミリも思わせない、もちろん恋愛や人間関係を繊細に絡めた見事なストーリー展開です。
容姿も違えば性格も真逆な2人の共通項こそ劣等感でありますが、傾向として山本は“下“を見て溜飲を下げる卑屈型で、熊飼は期待に応えようとする努力型。そんなんだから山本は熊飼に好意を膨らませつつも優越感との区別がつかず二の足を踏むことになるし、熊飼は頑張りすぎて空回りしがちに。普通ならもうそこでなんかめんどくさくなって投げ出すところを、それでも実直に相手や自分の心に向き合い続け、ありもしない完璧を求めなかった2人の結末に心から拍手を送りたい。
滑り出し、山小屋で同衾した時点でお触りくらいはあるかな?と期待したのですが、そんなエロメガネをかけて読み進めた自分をビンタしたい…
セールでもクーポンでもない定価での購入で、大大大大大満足です。
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