恋をするならひれ伏して
」のレビュー

恋をするならひれ伏して

ハルモト紺

ハルモト先生の本気

ネタバレ
2025年5月22日
このレビューはネタバレを含みます▼ 「シゴデキ営業マン同士がふとしたきっかけでライバルの垣根を越えエチの関係に…」という、本当によくありがちな設定で構成されているお話なんだけれど…先生によって全然内容が違うものなのですね。もう読み始めからギュンギュン感情が刺激され、最後までずっと悶絶し通しでした。

まず表情が良い。修正もエチもgood。キャラもしっかり立っているし、話の流れに違和感もなく…なにより心情描写が抜群に巧いです。
幼少期、目に見えて虐 待をされたわけでもないのに、いわゆる「一般」の基準にそぐわなかっただけで心に傷を負うこともあると思う。それは悩みなどないように見える長男気質な受けの早瀬にも言えることで、誰が決めたんだかわからないような基準が満たされなかったばかりに人格形成に影響が及び、ことあるごとに臆病になりその足元は揺れていた(極度の負けず嫌いとかとか)。そして御曹司である攻めの時藤もまた、跡取りとして寄せられる期待と本心との乖離に悩まされながらなんとか役割を演じているギリギリの状態で、それなりに拗らせていて…
なかなか素直になれない両者をつなぐエピソードは“誕生日“。親であれば子を、恋人であれば相手をどれだけ大切に思っているか、ひと目で測れる一大イベントなのでありますが、たったそれだけを基点にここまでお話をまとめ上げる先生の手腕…素晴らしすぎて恐れ入ります。

生活もままならないような両親に育てられ…なんていう貧困家庭にありがちな困難を乗り越えたエモBLを拝読する機会は多いのですが、成功者や陽キャと判を押される社会的強者の理解され難い精神的な苦痛をここまで丹念に解剖し作品に生かしたBLは数少ないのではないでしょうか。
聞き分けのよい時藤が都合のいい人間で居続けるかぎり、周りは役割を押し付けてくる。
出せ、出してしまうんだ、素を…なんて祈りながらページをめくりましたよね。

わたしは新刊クーポンでお安く購入するに至りましたが、定価で買っても損はない神作です。
時には甘えて、甘やかされて…プライベートでは張り合うことなく、生涯幸せに暮らしたらいいよ。同棲編、経営者編と、続々と続編お待ちしております。
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