1945シリーズ
」のレビュー

1945シリーズ

尾上与一/

小説。心だけでも、側に。

ネタバレ
2025年6月1日
このレビューはネタバレを含みます▼ 戦後十数年。連絡を絶っていた友人城戸の遺言で三上に渡された一通の古い手紙。物資が不足する終戦間際のラバウルで苦心しながら作られたその古い紙に指が触れた瞬間、時間という大きな波が三上に強く押し寄せてきて…。「蒼穹のローレライ」航空隊整備員三上と零戦搭乗員塁のお話。

ー以下、ネタバレありありですー
特殊な加工をした零戦に乗り、命をなげうってでも戦果をあげたい塁には塁の孤独と目的がある。搭乗員が生還できるよう技術を尽くして機体を組んで、あとは見送ることしか出来ない三上には三上の決意と祈りがある。異質な見た目と戦い方から周囲も手を焼き孤立していた塁と、どこか飄々として世話焼きな三上。信念のもとにぶつかり合いながらも、どうか生きてほしいと互いに願い、心だけでも側にと契るまでに絆を深めていく姿には、作品ジャンルの枠を越え大きく心が揺さぶられました。
戦況が悪化するなか、防空壕の一角で三上の故郷について話すシーンには涙が溢れます。身体を繋げる行為が尊いと、知らずに死んだら寂しかっただろうと無防備な行為を重ねる熱情には、若い命から奪われていく戦争の悲しみとそんな世界への怒りを覚えます。

戦争が話題にのぼることはあっても、過去について深く話し合う機会はなかなかありません。だからこそフィクションの中に史実を扱う作品は大切で、それらには心を動かされます。小説は物語の中に入り込み、その時代に身を置くことができる。後半は特に読み進めるのが辛く、シリーズ全てを読みきるには、まだまだ時間が掛かりそうです。

掌編「面影」は新装版のための書き下ろしでしょうか。あるものを欲しがる塁の、とても可愛らしいお話です。塁が年相応に見えてきて心が温かくなります。ホクロ…のくだりも微笑ましい。牧先生のイラストもとても素敵でした。
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