黒き獣と夜の花【シーモア限定描き下ろし付き】【コミックス版】
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黒き獣と夜の花【シーモア限定描き下ろし付き】【コミックス版】

丸田ザール

獣の影に白い花

ネタバレ
2025年9月3日
このレビューはネタバレを含みます▼ 反社会組織と花屋の色模様。219頁 星☆4.0
組織の幹部へ台頭している志賀東は墓参りの花を買いに店に入る。古い花屋の若い店員・庵寺春樹(あんじはるき)は盲目だった。

今回は志賀東を深堀りしたい。彼の素性は先代の組長が連れてきた以外分からない。どんな子供時代を過ごし、成長したのかは伺い知れないが、鍛えた体と眼光が普通の生活ではなかったことを物語る。そんな志賀が春樹に惹かれいく。序盤、車のウィンドウに映った表情をつぶやくシーン。もう、なにか芽生えている。花屋の奥で、大事に整えられた仏壇。小さな日常と向き合う生活。彼が取りこぼしたモノを春樹は持っていた。素性のしれない客を明るく迎える春樹のやわらかさが毎週花屋へと向かわせる。また時折みせる獲物を狙い定めるような目つきは今までの彼の生き方。獲物を虜にする手腕はいくらでも持っている。なのに、春樹には手が出ない。その葛藤をセリフは少なく、タバコの煙、視線、しぐさで魅せていく作者の手腕は上手い。

春樹は両親や祖母を亡くし祖父も病床にある。やがてくる孤独。そこへ現れた傷のある男。表情は見えなくても、笑い声や匂い、皮膚から伝わる優しさに春樹の心が変化する。盲目の中をいつもひっそりと暮らしてきた春樹にとって、志賀と笑顔でいられるのは諦めたくない生き方なのだろう。

最後にタイトルを思い出す。夜の花は白や黄色が多い。夜に目立つためだが灯のようにも見える。志賀の灯りに春樹がなればいいなと思った作品。

蛇足で、未来予想図の花屋は舎弟(顔出しOK)の方々に囲まれて結構繁盛しそうな気がするのは楽観しすぎだろうか。
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