緑の風に君をひらく
」のレビュー

緑の風に君をひらく

青井秋

ゆっくりと心が解けていく美しく優しい物語

ネタバレ
2025年9月6日
このレビューはネタバレを含みます▼ すごく良い作品で私は大好きです。
子供の頃に辛い記憶を植え付けた広く荒れた庭が、庭師である錦木の植物への強い思い入れによって甦り、変化していきます。
ただの陰だったものが木の影になり木の名前を知る。
雑音は意味のある音、エゴの木や桑の木が揺れる音や小動物の命を感じさせる音になる。
木の葉が風にそよぐさらさらという音、虫の声、高い木の上から運ばれる甘い香りに花の存在を知る。
我が家の庭もこれほど広くないけれど大きく育った木が何本かあり、読んでいるとありありと情景が浮かんできます。
そしてその庭を通じてゆっくりとひそやかに育っていく親愛の情。
穏やかだけど頑なだった倉岡の心が錦木の真っ直ぐで温かい人柄によってほどけていく。
2人が歩み寄っていく過程が丁寧に描かれていて、読んでいると暮らしの中で少しずつ固まっていった自分の心も解けていくのがわかります。
心に残り、かついくつものシーンが一枚の絵画のように美しく何度も読み返したくなります。
特に庭を背景に木漏れ日の中にいる倉岡の姿はうっとりするほど綺麗で、錦木が心奪われても仕方ないよなぁと納得します。
最後まで際どい描写はなくBLというジャンルに入れる必要がないのではないかと思うほど。
倉岡が書いた児童文学そのままのような世界観でBLファン以外にも自信を持っておすすめします。
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