箱庭のむこう
」のレビュー

箱庭のむこう

望月名緒子

あこがれと恋の源流

ネタバレ
2025年9月9日
このレビューはネタバレを含みます▼ 義兄弟の恋物語 コミックス 158頁 星☆4.0
初読み作家さま、表紙の好みでこちらへレヴュー。

親の再婚で義兄弟になった二人、母親の連れ子・恭弥と父親の連れ子・俊。11歳と7歳の出会い。とても仲の良い兄弟で家族は普通に過ごしていくはずだった。兄・恭弥は家族の自慢。容姿も勉強も音楽も欠点がないのが欠点と思われるぐらいの出来の良さ。比べて俊はすべてが凡庸。どこへいっても兄と比較されてしまう。

物語は弟・俊の視点で進んでいく。優秀な兄と普通な弟の兄弟喧嘩と見える出来事も”兄からの告白”が隠されている。10代の俊は困惑と葛藤で揺れている。しかも完璧だと信じていた兄からの好意に逃げ出したくもなる。まして誰にも相談できない。結局17歳の夏に兄が家を出る形で兄弟はこじれたまま。

作風は独特のタッチでほどよく抜けていて、余白に想像力が入りやすい。情景やズームアウトする引きの視点と映りこむ生活感が秀逸。兄・恭弥の表情は恋の切なさよりは苦悩に近い。だから短期留学の前の告白は唐突ではなく、心の隙間にこぼれ出た本音。これは「オルペウスの愛」と重ねた。オルペウスは妻を黄泉の国から連れ出し、あと一歩のところで一瞬の隙ができ、最愛の妻を永遠に失う結末になっている。

読了後に恋の源流は俊ではないかと感じた。冒頭、少年の俊は恭弥の声や瞳に魅せられている。憧れとも恋ともつかない感情を日々伝えられる恭弥。時と共に完璧な兄ではなく恭弥自身を受け入れて欲しくなったのが恋の始まりかもしれない。
最後にこじれた関係は3年の月日が必要となり決着へ向かう。詩の名手オルペウスは妻以外の女性を愛せなかったといわれている、一途というのがまたいい。
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