このレビューはネタバレを含みます▼
1巻完結の内容とは思えない、ストーリーの深さ・内容の充実度・完成度・読了後の余韻など、全てにおいてパーフェクトな傑作!
長編小説を読んだくらいの満足度です。
私は、アーミッシュという存在をこちらの作品で初めて知りました。
市街地から離れた自然に囲まれた地で、18世紀の暮らしを忠実に守っている敬虔なキリスト教徒。
不便なようで、庇護された穏やかな生活。
思春期の子どもたちにラムスプリンガ(モラトリアム期間)を経験させることで、その後の人生の選択権を与えているが、俗世で暮らすことを選ぶとその代償を負わなければならないという不文律があるーー。
ほとんどのアーミッシュの子どもたちは親と同じように暮らすことを選択するが、主人公テオはオズと出会ったことにより、生まれ故郷とオズどちらを選択するか葛藤する…というストーリーです。
アーミッシュの子どもたちのメタファーとして語られる、ニジマスの話が印象的です。
ニジマスは川の魚で一生を川で過ごしますが、中には大海原へ泳ぎ進む個体もあり、それらは海で過ごすうちに本来の姿よりも大きく成長するそうです。
それはまさに、アーミッシュの子どもたちの投影であり、モラトリアム期間を卒業したら村で規律通りの生活を送ることを選ぶ者が大半の中、テムのように生まれ故郷を捨てて愛に生きる子もいるのです。
あまりに残酷な選択ですが、クロエが呟いたように「愛とは素晴らしい呪い」とも言え、愛のために全てを捨てたテムはオズと生きることができる喜びの陰で、ほろ苦さを抱えて生きていかなければなりません。
何かを得るためには、何かを捨てる勇気を持たなければならない。
これは、アーミッシュに限らず大人であれば誰しも経験する通過儀礼ですが、この作品が痛いくらい胸に響くのは、テムに自分の姿を投影するからかもしれません。
自分の生き方を模索するモラトリアム期間を、アーミッシュという実在の人々を通して哲学的かつ文学的に描き表す…この作品は、まさにBLというジャンルを飛び越えた名作と言えましょう。
本作品内においては、その後の2人がどのような暮らしを送ったのかは描かれていませんが、続編である『親愛なるジーンへ』の中で、2人の暮らしぶりが垣間見えるシーンがあり、こちらの作品もとても素晴らしいので、読了後はぜひ『親愛なるジーンへ』も読んでいただきたいです。