さよならのモーメント
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さよならのモーメント

仁嶋中道

人生はどうしたって生きている人の為にある

ネタバレ
2025年10月16日
このレビューはネタバレを含みます▼ ある日突然未来を奪われた人の無念を思うと可哀想で可哀想で仕方ないけど。
やっぱり死んでしまったらおしまいなんです。だから死というのはこれ以上ないくらい残酷なことで、月並みな言い方過ぎて自分でももどかしいけど命は大切にしなければいけない。そして残された者は悲しみと共に、故人との関係性によっては罪悪感を感じてしまうことがある。過ぎてゆく日々の中で新しい出会いがあった時、その人と生きていきたいと感じるのは罪でも何でもない。でも葛藤する気持ちは分かり過ぎる。しかもその姿をかつて好き合っていた故人に見られている状況だとしたら。

時計修理店を営む春哉の元に現れた高校生の司。聞けば司の中に亮輔が憑依したという。亮輔は春哉の幼馴染で2人は両片思いだったが、25歳で不慮の事故により亡くなってしまった。その半年後の出来事だった。奇妙な3人生活が始まります。

漫画というフィクションの世界でならどうすることだって可能です。コメディ寄りにして3人わちゃわちゃ暮らし続けることだって、何なら亮輔が生き返ることだって。でも本作がそういう話だったら今私が流している涙も胸の痛みもきっと無くて、読後に感じた感動はここまでではなかったかもしれない。

春哉の誕生日が4月1日だと知った瞬間から結末の予想はつきましたが、分かってはいても見たくない…絶対泣く…と思いながら読み進めました。(そしてまんまと号泣)
司がいい子で。クソ母とは似ても似つかない、人の気持ちを思い遣れる子。そんな司だから春哉も惹かれたのでしょう。でも互いに惹かれ合っていく2人を亮輔がどんな思いで見ていたのか考えると苦しくて…。だから余計誕生日の嘘が泣けてくる。最初で最後のキスに胸が締め付けられる。かなり亮輔に感情移入してしまったので、この時ばかりは漫画の中でくらいどうにかなっても…と一瞬望んでしまったけど、ここで冒頭の想いに戻ります。
やはりこの世は生きている者優先だし、そうでなきゃいけないと思う。3人で暮らすならもっと先、どうかこの世での生を全うした後で。春哉も司も亮輔を忘れることはないから亮輔は2度死ぬことはありません。天国で再々会を果たせると、読者としてはそう信じていたい。
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