このレビューはネタバレを含みます▼
底なし愛のアルファと囚われたΩの物語 251頁 ひまわりはキク科の一年草。花言葉は「あなただけを見つめる」しかし、愛の花を育てるのは難しい。
夏の東京、清掃会社で働く周参見人紀(すさみ とき)は猛暑でもハイネックを着ている。うなじに刻まれた番の痕を隠すために。その頃、反社の跡目を継いだ伊豆嶋世継(いずしま せつ)は番の人紀を迎えにやってくる。
ときどき無性に息もできない苦しい愛に捕らわれた人を見たくなる。せきとう先生の作品は印象的な音から始まる。今回はせみ時雨。それに夏のむせ返るような暑さがプラスされていく。イントロは重く、決して明るい話にならないのを予感させる。
早くに両親を亡くした人紀は田舎の祖母に引き取られた。対して世継は反社の庶子。埋められない孤独を互いに共有していたのかもしれない。
無理やり番にされた高校時代を経て、人紀は田舎から逃げ出す。逃避生活は3年間。自由なはずの人紀に幸せの表情が見当たらない。縛りのない世界で働けば恋人を作ることもできるはず。それが今もって、人紀は疲れた顔をしている。それはΩのヒートがくるからか?それとも世継との関係が復活してしまう不安からか?そんな行き場のない感情に支配されているようにも見えた。
世継が人紀のいない時間をどう過ごしていたのかは描かれていない。離れることで人紀を解放したかったのかもしれない。それは一度として人紀の心をゆだねてもらえなかったからか。ずっと世継は片想いのままだ。彼の愛は芽がでない。とうとう最後は命まで与えて底なしの愛が尽きていく。
人紀は世継の黄色がかった薄茶の瞳をひまわりのようだと言った。東京から田舎へ戻り、思い出のひまわり畑を育てている。今度はどんな愛を誰と育てたいのだろう。