彼が愛しているのは
」のレビュー

彼が愛しているのは

安西リカ/橋本あおい

過去ごと愛する

2026年5月10日
三角関係ものなのに、単純な当て馬構造になってないのが本当にうまい。
特に町田の立ち位置。普通なら、「死んだ恋人を忘れられない相手に苦しむ現恋人」になりそうなのに、この作品ってもっと静かで複雑で、死者との比較に勝てないことを、町田自身が理解してしまっているのがしんどい。
しかも東江って、直接の登場量は多くないのに存在感が強烈で、「もういない人」なのに関係性の中心に居続ける。
それがこの作品の空気をずっと支配している。
あと、真白の人物造形がほんと絶妙なんです。
一見すると、飄々としていて、セフ◯なんていう関係を結んでいる軽そうなやつで、ちゃんと向き合ってないように見えるのに、実際はめちゃくちゃ人を見てる。
しかも真白の誠実さって、「誰も傷つけないようにする誠実さ」じゃないんですよね。
むしろ、「綺麗事では済まない感情から逃げない誠実さ」に近い。
だから真白って、優しいだけのキャラじゃなくて、ちゃんと残酷でもある。
町田に期待を持たせるし、東江を完全には手放せないし、でも嘘はつけない。
あの半端さが、人間っぽい。
この作品の上手さって、「死者を美化しすぎない」ところにもあると思うんです。
東江は特別だけど、決して神格化されてない。
だから町田も、勝てないのに、比較そのものが無意味とも言い切れない。
この宙ぶらりんな感情が、すごくリアル。
この作品って、最終的に過去を乗り越える話じゃないんです。
東江は消えないし、真白の中からいなくならない。
でもその上で、町田との関係も本物になっていく。
この、一番じゃなくても愛は成立するみたいな着地が、本当に大人。
安西リカさんの書く欠け、依存、過去を抱えた恋、完全には救われない関係に惹かれます。特に感情の整理されなさを書くのが抜群にうまい。読み終わった後からすぐに新刊を待ってしまいます。
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