「カリギュラの恋」や「はじまりはナカから」など、美麗で濃厚なエロが印象的なアタミ先生。
本作はエロは控えめ。望まずに吸血鬼になった和重と、誰からも望まれずに生きてきた昭彦の話。
ありふれた設定、ストーリー展開ではあるのです。ですが、
とても好きでした。理由を考えてみますと、和重に尽きます。私は和重を見届けたかったのです。
ここからお話に触れますね。大きなネタバレはしません。
1968年。高度経済成長期。社会はうねり、人々の暮らしが変わり、日本中が前を向けた時代。
そんな時代に和重は1人、誰とも関らず、静かに小さなアパートに暮らし、永遠の刻と向き合っていました。
多くを望まず、ただこの憎らしい永遠の命を終わらせてくれとだけ願って。慎ましい暮らしの中から血液製剤を闇ルートで手に入れ、それを飲む。生きるためではなく、人を傷つけないために。再び望まずに吸血鬼になる人間が生まれないように。
時の中に取り残され、何を思って生きてきたんだろう。どんな想いで時代に消えていく人たちを見ていたんだろう。宇宙に1人放り出されたような、恐怖にも近い孤独。けれどたたえた悲しみの中に、元来の性格からであろう温かみを感じるのです。「お前さん」と昭彦を呼ぶ(あぁ、この言い方は私が少女の時代に夢中になった某天才無免許医がいうのです)その彼の恋を見届けたかったのです。
前向きでありながら、戦後の爪痕だったり、貧しさを物語にできた昭和のこの時代背景が、物語にぴったりとハマっていた気がします。
彼が気に入ったらこのお話はきっと楽しめると思いますよ。
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