ここまで複雑な愛と友情の話は読んだ事がないかもしれません。愛と一言で言っても異性愛も同性愛もあるし、家族愛だって親子・兄弟・祖父母と孫もあり、友情だって異性同士・同性同士と何パターンもある上に、本人達でさえどれに当てはるのか分からないような関係もあり、しかもそれらが境界線も秩序もなく入り乱れていて心が騒つくようなストーリーでした。
多分、人間って得体の知れないものに恐怖を感じると思うんです。だから形あるものだけでなく実体のないものにまで名前を付けたくなるのでしょう。自分の気持ちが友情なのか恋愛感情なのか名前を付けたがる…そして、最後にそのどちらでもないと気づいた時のショックはどれ程のものであったか。女性マンガだからでしょうか、女性特有の複雑な心理描写や気持ちの揺れ動きについて深掘りされていて、より登場人物の痛みが伝わってくるようでした。
この作品は、シリーズになっています。こちらと前後する形でBLジャンルの『IN THE APARTMENT』『続 IN THE APARTMENT』があります。私は普段から生活圏がBLで、そちらから来ました。正直、BLの方だけでは細部まで拾いきれていなかった気がしていたので,こちらの作品を読めた事は、相互理解に大いに役だったと思います。妹尾については特にそう感じました。こちらを読んで初めて、あの世捨て人のような儚さ漂う存在感の理由が分かった気がしました。
BLが苦手な人には無理強いしませんが(いたす描写もあるので)そうでなければ、どちらも読む事をお勧めします。あとタイトルも秀逸だなと思いました。『モアザンワーズ』は「more than words」で、直訳すると「言葉よりもっと/言葉以上に」とかでしょうか。確かに…言葉以上に心で、空気で、表情で、行動で、読者には絵で、本当にたくさんの事を伝えてくれたと思います。重いけど素敵な作品でした。