戦前から戦中を主な舞台として描かれる本作のレビューを、八十回目の終戦記念日に。
昭和初期、トーキー映画で歌うことを夢見る少女・小夜子の成長と激動の時代を描いた物語です。
私は本格的に昭和初期や太平洋戦争について興味を持ち始めてから、それに関連する様々なタイプの作品を拝読しました。
その中でこれは許容し難いと感じた事柄があります。戦時中の人々が史実に反した姿で、ビジュアル重視のいい加減な描き方をされることです。
特に髪型・髪色が派手な現代人のように描かれたものを見た時は、呆れと怒りを覚えたほどでした。過酷な時代を生きた方々を馬鹿にしているのかと。
本作を知った時も、正直言うと舐めていたのです。こんなキラキラした絵柄で、戦時中の様子がしっかりと描けるのかな?前髪垂らした茶髪の日本兵とかが登場したりしそうで嫌だな…と。
そんな風にすら思いつつ、お手並み拝見とばかりに試し読みして完全降伏…。冒頭から引き込まれてしまった。
確かに絵柄は可愛い少女漫画風。しかしながら、私の懸念が消し飛ぶほどにストーリー作りが巧み。そして何より、戦前戦中の日本についてしっかりと調べ上げられていることが窺える。これには脱帽でした。
当時の映画界と、次第に苛烈さを増す戦争。その戦争に翻弄されていく登場人物たち。戦禍の中での恋愛、悲しい別れもあります。
当初は完全に見くびっていたこともあり、その反動で余計に心動かされてしまった感じ。一気読みでした。さすが“星降る王国のニナ”等の人気作を生み出されている作家様です。
私は戦争物の中でも軍人さん・兵隊さんがメインのものをよく読む方なので、“歌”や“映画界”というこの作品のテーマはとても新鮮でした。
遠い戦地の兵隊さんたちも、歌に癒され、活力をもらっていたんですね。もちろん市井の人々も、主人公たちも然り。
切ないながらも、一筋の優しい光が差すような物語でした。よくありがちなご都合主義な終わり方でなかったことにも拍手したい。
絵柄で敬遠せず、手に取ってみて良かったです。