コミック版を読んで先が気になり過ぎ、紙の小説版を買って読んでしまいました。ヒーロー(アリステア)は領民から慕われる善政の領主様。天才的な魔術師であり、大変な美丈夫。そんな羨望の的でありながら、ある石像しか愛せない…石像を着飾らせ、話しかけ、いろいろ致す…残念な男。しかしそれには訳があり、その石像は、ヒーローを8歳の時から引き取り育て、4年後にヒーローを逃がす為に犠牲になった12歳年上の愛しい師匠(ララ)でした。早熟なヒーローはその頃から師匠の夫の座を狙う本気ぶり、ライバルになりそうな適齢期の男性を密かに追い払い、自身が結婚を許される年齢を待つという激情と独占欲を示していました。
その矢先に師匠を失ってしまいます。生きる意味を見いだせないほどの苦しみを耐え、3年もの厳しい研鑽を積み、師匠を失わせた竜を討伐します。その体内から発見された石像はなんと愛する師匠でした。いつ生身に戻るか、戻らないかも分からない終わりの見えない苦しみ。期待しては絶望する。その繰り返しの長い年月。
「いつか子供が空腹や暴力にさらされない世界になったらいいわね。」生前何気なく話した師匠の言葉を忘れずにいたヒーロー。自分の寿命が尽きても、愛する女性が目覚めた時には、そこが彼女の望む世界であって欲しい。無償の深い深い純愛。それこそ絶望にありながらも、20年の長きに貫かれた愛の重み。あまりの切なさに、フィクションと承知しながらも、泣けてしまいました。
若いふたりの恋愛物語などにも泣ける話しはありますが、それの比較にならない重み。いい歳をして涙が出ました。まあ、いい歳だからこそ、年月の重みがこたえたのかもしれませんが。だからこそヒーローの喜びに本当に同調出来てしまい、嬉しさを味わえます。とても名作です。