■一人の違う生命体を体内に宿し、体内で育て、体外へと産み出す──「出産は大変だ」と言われるが、字面にするとその無茶っぷりがまだに痛いほど伝わってくる。「鼻から西瓜が~」とさえ評される苦痛、胎児を宿すことによる心身に及ぼす影響、その全てを引き受けて出産という行為に臨む人々…しかしそれは孤独な戦いではない。なぜならその側には『彼ら』──プロ──がいるからだ。■この物語には多数の医療従事者が登場する。主人公ら産科医、不測の事態に対応する救命医、麻酔医、医師よりも患者に身近な看護師や助産師たち、妊娠中、産後のケアを担当するケースワーカーなど。彼らはそれぞれがその専門分野にて最大限の努力をする。産科医は妊婦の健康維持と無事な出産に全力を尽くすし、救命医はただ命こそを救うため自らの心身を削る。作中、飄々としたキャラクターで登場する麻酔医だが、しかし彼らのみが成せる妙技は手術には不可欠なものだ。患者の病理以外のところで彼らは患者の命の責任を一身に背負うまさにプロ中のプロだ。医師以外のスタッフの描写も見事だ。「スタッフは〈第二の母親〉だ。その彼らが感じた違和感を見逃すな」──作中何度も描かれる(ときには出産に臨む妊婦以上に)彼ら医療従事者の苦悩と苦渋の決断。命と向き合うその責任の重さ、過酷さに相対しながら、それでもなお職務に臨むその崇高な姿が「出産は奇跡だ」「命は大切だ」という言葉を空手形に留まらせることをさせない。■出産はピークではない。始まりなのだという事実をこの作品はしっかりと描いている。幼児〇待や未熟児、障碍児のその後など、妊婦だけでなく家族の苦悩と痛みを残酷なまでにはっきりと描いている。当事者らが心折れてしまいそうな現状の中、生まれてきた命を「育てる」べくただ前を向く医療従事者たちのプロフェッショナルな姿勢には、敬意を通り越して畏怖の念すら抱かせる。■決断の重みと寄り添う主人公──作中、多くの決断が行われる。そも出産の是非から、母胎か胎児かといった命の選択、養育の可否、この職を続けられるか否かといった様々な決断はどれも重く、その後の人生を賭けた問いに、強い言葉を吐くでもなく寄り添う主人公、鴻取(こうのとり)先生の姿勢は大きな援けだ。■個人的に一番衝撃的だったのがNICU(新生児集中治療室)の現状だ。作中7巻に当たる一連の物語は本作品の肝だと思う。是非ご一読いただきたい。