■「京の都のたおやかで雅で陰惨な闇の中を 風に漂う雲のように飄々と流れていった男の話がはじまろうとしている」──一巻冒頭のこの書き出しがこの作品の全てを言語化していると言っても過言ではない。『平安時代』『貴族文化』『怨霊』『陰陽師」『安倍晴明』…夢枕獏氏の言葉によって紡がれた幽玄なる世界観を、岡野玲子女史による耽美淡麗なる絵筆によって完璧に肉付けされた一大傑作。■格調高い歴史絵巻の如きその外見に反し、描かれる人物は実に「気さく」で味わい深い。捉えどころのない雲のような男、安倍晴明。やんごとなき身分でありながら自己の感情を素直に表に出す源博雅。古くはシャーロックホームズとワトソンにも見られるこのバディ感──二人の微笑ましくも風雅なやりとりは、読者にとって遠き時代の霧中を覗かせるオペラグラスの如き役割を果たす。■我々読者は晴明を通して〈時代の影〉…怨霊ひしめく闇の都を視、博雅を通して〈安倍晴明〉を観る──手の届かぬ幽玄雅趣な世界をただ堪能する官能にも似た本作の読み心地は、まさに晴明の掌上で翻弄される博雅の如く、不可解ではあるけれど不快ではない…どこか心地良ささえ感じる有り様と完全に同期する。作り手の生み出した世界観に耽溺する悦びを与えてくれる珠玉の一作、どうかご堪能あれ。