月影
」のレビュー

月影

SHOOWA

素晴らしいお話(すごくネタバレです)

ネタバレ
2021年3月14日
このレビューはネタバレを含みます▼ 今まで読んだBL本の中で3本の指に入るくらい心を掻き乱されたお話です。
短編集で「月影」と「逃げ水」の間に3つの短編が入っています。他のレビュアーさんが書かれているようにあまりに悲しくて1度しか読めなくて、電子で読むようになる前に買った紙の本は段ボールにしまい込んでいるので、また読みたくて竹書房さんのセールに電子で購入しました。
初めて読んだ時はすごく悲しかったのですが、久しぶりに読んで悲しいだけのお話じゃなかったなと思いました。
「月影」は白人の血の混じった雪人が赤ん坊の時に廓の前で拾われ廓で成長し14の時に客を取らされ、幼い時から優しくしてくれていた先生(医師)に恋心を抱きながら資産家に身請けされるまで、「逃げ水」は養父となった資産家に学校に行かせてもらい医者を志し、同級生と恋をし戦争の惨禍に巻き込まれるところが描かれています。
「逃げ水」というのは炎天下に遠くに水溜まりがあるように見える現象で近づこうとすると一緒に動いて行くように見え、いくら追いかけても追いつくことはできないそうです。これは雪人の恋のはかなさを表しているのだと思います。
「月影」で客を取らされたくない死にたいと泣く雪人に先生が自分はアメ玉を買ってやるくらいしかできないと苦しみながら、生きていてくれたらアメ玉を「しわくちゃのジジイになったろが買ってやる」「わしの為にも生きてくれ」という場面とラストの先生の横顔に胸が苦しくなりました。
「逃げ水」で雪人は災厄に見舞われながらも先生の「生きてくれ」という言葉と自分が愛した人や心からの愛を傾けることはできなかったけれど支えてくれた人からの愛情を胸に医師として人のために生きることを決意します。
愛を失いながらもまた別の愛に支えられた雪人。精一杯生きた素晴らしい人生だったと思います。勝手ですが、現世を離れた時に先生が「ようがんばったな」と言って雪人の口にアメ玉を含ませるそんな優しいイメージが浮かぶのです。
2014年4月 総195ページ 修正は真っ白。
いいねしたユーザ21人
レビューをシェアしよう!