風と木の詩
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風と木の詩

竹宮惠子

ジルベールは風 セルジュは木

ネタバレ
2021年8月10日
このレビューはネタバレを含みます▼ 1976年から1984年まで連載されたBL界のバ イブル的な作品とありました。連載当時「風と木の詩」は衝撃的な作品と言われていてなんでもジルベールという美少年がめちゃくちゃヤラレルとかで、まだ子供の私は少年愛に興味津々ではありつつそんなかわいそうなお話はいけないものなんだと手に取れませんでした。しかしこのあいだ図書館にふらりと行って見つけたのです。この本を!見間違いか?いや間違いない、確かに竹宮惠子先生は漫画界の巨匠なので図書館にあっても不思議ではないなと、過去に読めなかったこの本を借りてきました。19世紀末のフランスの学院の寄宿舎で繰り広げられる少年達の物語、セルジュとジルベールを主人公にして学院での出来事の間にジルベールと叔父のオーギュストの過去とセルジュの父親アスランの恋、セルジュの過去のお話が挟まれます。生まれた時から父母の愛情を受けてこなかったジルベールと幼い時に父母の愛情を一身に受けたセルジュは互いの半身のように惹かれ合いつつ理解しがたい存在でもあり、セルジュの与え得る愛情では激しく熱いジルベールは満たされず苦しみます。全8巻読んで(途中から欠けていたので最後の2冊は電子で購入しました)、少年の性愛を扱っていますが、そればかりのお話ではなく、登場人物が一面的ではなく丁寧に描かれていて、正義の味方のようなセルジュは思い込みが激しくがんこで事を大事にしてしまいがちだったり、ジルベールはただの不幸キャラではなく自分の美しさを充分自覚していて満たされなさから人の心をもてあそぶ小悪魔で、セルジュの叔母は嫌な叔母さんですが気持ちがわかるところもあり読みごたえがありました。セルジュとジルベールの過去と現在を縦糸横糸に、学院の個性的な面々や親族友人使用人その他大勢を含めて物語が紡がれていきます。文学的で「アンナ・カレーニナ」のような重苦しさを感じました。とはいえ明るさもあります。青春の光と影、若さ故の美しさ愚かさ純粋さ残酷さ脆さ。それから運命のいたずら、あの時ああだったらと幾度も思いました。気になるのはその後のオーギュストのこと。やはり彼のことは賛否両論でしょうが、好きです。1番悪いのはオーギュストの義兄夫婦だと思います。願わくは彼の心に平穏が訪れんことを。辛いところが多かったですが、読めてよかったです。ひとつ残念なのはセルジュの肌が一部を除き褐色に描かれなかったことです。
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