心を殺す方法
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心を殺す方法

カシオ

サガンの描写する虚無の世界を感じる秀作

ネタバレ
2021年8月22日
このレビューはネタバレを含みます▼ あー本当に素晴らしい作品でした。こういう作品大好きです。
こちらの作品、サガンの『悲しみよ こんにちは』の内容と共鳴するものがたくさんあるなあと感じました。まさにサガンのあらゆる作品の隠れたモチーフにもなっている「虚無」が1つのテーマになっているのかなあと感じます。作中でも、春樹さんが光に買ってあげていた小説は『悲しみよ こんにちは』ですが、カシオ先生のこの作品に込められた作意や想いを(僕なりに)深く感じました。特に、『悲しみよ こんにちは』の冒頭で引用されているポール・エリュアールの詩は、まさに春樹さんと光を象徴しているなあと。読後にさらっと小説を読み返してみてそう感じました。
最初から、春樹さんと光、2人だけの世界が存在していれば良かったのに。そう思ってしまう程、彼等の互いによる洗脳とも言えそうな相互依存・執着ぶりはきっと誰にも理解されないんだろうなあと思います。でも理解出来ないから面白いし、魅力的だなと僕は思います。2人の関係には最初から誰も干渉してはいけないのかもしれないですね。彼等の関係性を知った上で、それでも少しでも干渉して巻き添えになって自分が不幸な境遇に陥ってしまったとしてもそれはもう自業自得としか…遥さんの様に。何も知らずただただ悲しみの中にいるだけのお父さんは、一番悲しみよこんにちはって感じですが。でもこれはきっと知らなくても良い事ですね、お父さんにとっては。個人的に英さんが凄く好きです。春樹さんと光の関係に翻弄されて、結果的に再び振り回されている姿はちょっと可哀想ですが。一番安心できるキャラクターです。
望みを失っても、心を殺しても、結局は意識がお互いの方へ向いてしまう2人。自分の価値は"虚無"であっても、互いがいるというだけで、それが自分の存在意義になっているんだろうなあ。
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