鞄図書館+プラス
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鞄図書館+プラス

芳崎せいむ

本編は就寝前に、大切に1話ずつ読みたい

ネタバレ
2021年8月31日
このレビューはネタバレを含みます▼ トレンチコートに中折帽、独特の髭スタイルが年齢不詳な男の職業は、“鞄図書館” の司書。その手に提げたクラシックなボストンバッグは他人が開けても中は空っぽ。でも男の手を介せば鞄の内側はあらゆる書物を所蔵する無限宇宙の図書館へと変じ、命綱を伝えば利用者自ら鞄の中に入っていくことも可能。本の貸出期限は1年間…。鞄は人語を操りゲーテの名言を語って聞かせる。これはそんな司書と鞄図書館が世界を巡る中で出会った人々と描く物語の数々。
この100ページに満たない作品は「鞄図書館」という4巻まで配信中のシリーズ(便宜上、本編と呼ぶ)に未収録の3話分と書き下ろしの「鞄図書館プラス」1話からなるオムニバスです。本編同様、各話にはそのテーマに絡む1冊の本が原本の装丁そのままに登場するので、その本を知っていればいるほど、読んだことがあればある分だけ、グッと胸が熱くなるはず!(夢中になった本達が登場する度に自分は卒倒しかけます) …とは言え、原本がストーリーの解釈を左右したりはしないので、知らなくても心配ご無用、ちゃんと紹介があります。
「プラス」に登場するのはH.G.ウェルズの『タイム・マシン』。わずか15ページのお話が胸にドスンと来た。最後まで読み、まさかと思い最初から読み返す。最後で涙が噴き出す。無論予想はしていた。だけど、わかっていて、それでもそうするのか…! “彼” には可能であることは「彼」にとってアイロニーか、それとも希望、賭けなのだろうか?“彼” を何者と考えるかで幾通りも解釈できそう。
鞄の中に広がる無限の広さと深さを持つ図書館。本書ではチラとしか出てきませんが本編で見るその階層構造の素晴らしさには、本好きの夢がたくさん詰まっています。
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