メロンの味
」のレビュー

メロンの味

絵津鼓

たくさんの人の側に寄り添ってくれる作品

ネタバレ
2021年10月12日
このレビューはネタバレを含みます▼ 大大大好きな絵津鼓先生の新刊。
この作品読んで、私的好きな作家さんの順位変動して絵津鼓先生がベスト5に入りましたよ。いやー、ほんとたくさんの人、辛い思いをしている人に特に読んでもらいたい。このしばらく読んだ新作の中で、ベスト1大ヒットホームラン。先生もコメントされてましたが、絵柄が以前の作品と変わってます。人物は更にシャープに感情がくっきりと際立つようになって、細かい小物や背景もリアリティあって丁寧に描かれて、上質なドラマを観ているよう。自分の中の凹んでるところにピッタリはまるような作品でした。

登場人物や背景の説明もなく突然に始まる同居話。えっ、読者も物語の中に放り込まれます。バーカウンターで店員らしき人(ナカジョーくん)が一人暮らしって尋ねられ、聞けばお客の木内くんが彼女にフラれて行くところがないので寝床を探してるって言う。同じ年頃だからって、あれよあれよとナカジョーくんのところに居候することになり。。と、冒頭の展開としてはBLあるあるかもしれないけど、私が大好きな絵津鼓先生の独特の空気感がふたりに流れていて、あっという間に目が離せなくなります。
お互い隠している傷と生きづらさ、夢はと聞かれて諦めることと答えること、たぶん作者さんも今でしか描けなかっただろう感覚が見事に作品に反映されていました。何も言わずに側にいてくれるだけでいい、この言葉、シーンを作者さんの後書きを読んだあとでもう一度読むと涙溢れます。

下巻には描き下ろしと後書きで9ページ収録されていて、ふたりの数年後のある大切なシーンが見られますので、雑誌連載で追いかけていた方にもぜひ単行本で読んでもらいたいです。
たくさんの人の側に寄り添ってくれる素敵な作品を描いてくださって本当にありがとうございました。

追記: タイトルの「メロンの味」の意味は、上巻でメロンソーダがほんとうはメロンの味でないのにメロン色にみえることでメロンの味と認識してしまう、つまり日々を自分を騙してどうにか生きてる木内くんのことかと思っていたら、そうではなかったようです。作者さんのTwitterでネタバレとして明かされてましたが、もう一つのアイテムで出てきたメロンの香りの方。下巻の旅館のシーンでいつもと味が違うと言った、もっと直接的な「日々」の意味だそうです。深い。。。
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