ラムスプリンガの情景
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ラムスプリンガの情景

吾妻香夜

勇気を出して…1年越しの再読&レビュー

ネタバレ
2021年10月20日
このレビューはネタバレを含みます▼ この作品は既読の方なら誰もが感嘆する名作中の名作だと思うのですが、僕にとってもあまりにも思い入れがあり過ぎて、今までレビューを書けないでいました。一年越しのレビュー。フォローさんが先日あげられたレビューを拝読し、感動のあまり涙が溢れ、その涙収まらぬまま一年ぶりに再読。もう本当に、何を書いたら良いのかわからなくなる程、色々な思いや感情が込み上げてきてしまって…。
テオ、オズ、ダニー、クロエ、彼らそれぞれの信念や人生観というのがあり、守りたい価値観、文化、大切な人がいて。そのどれもが正しいわけでも間違っているわけでもなく、それぞれが信じる"何か"をただただ貫き通したいという強い思いが存在している。でもその何かを貫き通すには放棄しなければいけない"何か"も出てくるわけで。貫き通したい"何か"と、棄てなければならない"何か"、自分にとってそのどちらも心から愛する大切な何かだったら、そのジレンマにどう立ち向かえば良いんだろう。テオとオズは互いの愛の為に一生掛けて彼らの大切な何かを貫き通そうとするんだろうし、ダニーとクロエもまた、"素晴らしい呪い"とまでに表現する程の、彼らの愛を全うする事を選んだんですね。きっとそれは楽しくて美しいだけのものじゃないんだろうな。
どこかまだ後ろ髪引かれる表情で「恋って素晴らしいの」と空を見上げながらテオにそう伝えるクロエ、そして、家族であるテオとの別れを金切り声と共に悲しみ惜しむダニー。寂しさありながらも、決意を固めて颯爽とバイクで走り去るテオとオズがいる一方で、ダニーとクロエの迷いや葛藤はまだ残されたままなのかなと想像してしまうラストシーンです。喜びと苦さの共存。
この作品はレーガ○政権に変わった80年代初頭アメリカの時代背景や文化、混沌とした米差別社会をとても忠実に描いていて、吾妻先生のリサーチによる入念な詳細設定にも心底感激します。
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