竜は無垢な歌声に恋をする
」のレビュー

竜は無垢な歌声に恋をする

名倉和希/黒田屑

大丈夫、この巻だけでも楽しめますよ!

2021年10月26日
時系列的には『竜は将軍に愛でられる』→『番外篇 王国のある一日』→『王子は黒竜に愛を捧げる』に次ぐシリーズ4作品目。
でもファンの先輩方のレビューにたじろぎ、「1作目から読まなきゃか…」と身構えたり怖じ気づくことはないですよ。読者を置き去りにしない丁寧で優しい描写が定評の名倉先生。あとがきで太鼓判を捺していらっしゃる通り、興味を引かれたどの巻から読んでもすぐに世界に溶け込めます。どのみち、1冊を読み終える頃には(先輩方の願いand狙い通り) 猛然と全冊読破したくなっている筈です…。

さて本作は、竜人族の騎士シリル(22)と美しい歌声を持つレヴィ(17) の出逢いと奇跡の恋のゆくえを描いた物語です。序盤で明かされるレヴィの壮絶すぎる生い立ちと、その限界を超えた我慢や頑張りに涙せずにいられる人がいるでしょうか。
一方のシリルも、国の宝としての振舞いを幼い時から求められ、他者の手で人生の先の先まで敷かれたレールの上を諾々と歩くだけの日々に倦んでいました。
貧富の差こそあれ、思うに任せない人生に多くを望めなくなった心のありようと、気高く孤独な魂という2つの共通点を持つ2人が、それと知らぬ間に惹かれあい恋に落ちていく。若い彼らにしか持ち得ない真摯さと純真さと一途さで互いを求めあう姿に、きっと胸打たれ心揺さぶられるはず。
ファンタジーだからといって全方位ハッピーで終わらせないベテラン名倉先生が描く、人の生の現実と重さ。その幸と不幸の絶妙な調味加減が、あともう1口、と次の作品を読者に渇望させます。

シリーズ初の冒頭の人物紹介図をはじめ、黒田屑先生の美麗なカラー扉絵や挿画、ランディ愛が爆発した(笑)あとがきイラストは必見です。
いいねしたユーザ17人
レビューをシェアしよう!