鬼と天国 【電子限定特典付き】
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鬼と天国 【電子限定特典付き】

お吉川京子/阿賀直己

壊れたバケツのような人、と思いきや…

ネタバレ
2021年11月23日
このレビューはネタバレを含みます▼ 表紙の天獄先生の絵に惹かれて、一体どんなキャラなのかしらと読み始めて、これはそんな単純な作品ではないとすぐ気づいた。表向き、省エネ教師でちょっとくたびれた容貌の青鬼先生。アラフォーの男性って多少のことでは傷つかないと思われがちだけど、実は幼少期の母親からの躾で、素の自分を隠して、期待に応えるように生きてきたものの、誰かが素の自分自身を見つけてくれるのを(半ば諦めながら)待っている繊細な内面の持ち主。対して見た目綺麗な天獄先生は、多忙な両親の下に育ち、無償の愛というものが分からないまま、けれど相手が何にコンプレックスを抱いていて、何をしてどうすれば掌中に入るのかが分かり性的な関わりにも躊躇しないタイプ。最初は、学(天獄)は、相手の痛みが分からないサイコパスなのかと思って読んでいたけど、そうではなくて、無償の愛が分からない、信じられないから、相手の痛みも自分の辛さも、受ける愛情も受け止めるだけの情緒が育たずに大きくなってしまった、壊れたバケツのような人なのかな、と思えてきて。
すると、初めて素の自分を見てくれた学に対する篤郎(青鬼)の感情が動き出し、学に向けて感情を通わせる言葉を紡いでゆく。学も、これまで目を向けてこなかった自分の内面を見つめてくれる篤郎が特別な存在になり、篤郎を自分だけのものにしたいと思うようになる。そこからは篤郎の愛情が壊れたバケツの穴を塞ぎ、学に感情という水が満ちていくようになって。その過程を見ているうちに、読み手の気持ちもシンクロして満ちてゆき、予想外の多幸感を感じる。ああいい作品を読むとこんな感情に出会えるんだ…としみじみ。
ストーリーも、篤郎の抱えた不全感を学が引き出して解放したかと思えば、今度は学の抱えた欠落を篤郎が持ち前の情愛で埋めていくという構成につい引き込まれて読み進めてしまう。複雑な内面を抱えたキャラが、いきつ戻りつしながら変化していく様も面白くて、2人の関係がこの先どうなるのか先が気になる、よくできた作品です。色気のある絵もよき!続きが読めるのが嬉しい!まとめて読める今出会えて良かった、と心底思いました。
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