野ばら
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野ばら

雲田はるこ

心地良さと胸の痛さが混じり合う短編集

2021年12月6日
はるこ先生の作品を手に取るときは、いつも癒しを求めて読むことが多いですが、この作品はちょっとだけ違いました。表紙絵の和やかな雰囲気から受ける印象とは相反して、とても胸打たれる短編作品集でした。表題作+他2作品から構成される短編集です。
表題作『野ばら』、温かくて読後はほっこりした気持ちになれる物語でした。
個人的に特に心に残った作品は2作目収録の『みみクンシリーズ』。ニューハーフサロンで働くみみクンとその恋人薫チャンの恋の話です。この作品は、本人たちにとってどうにもうまく言い表せない心のもどかしさや葛藤を、とても細かく写実的に、1組のカップルの物語を通して描いているなあと感じました。リアルだからある意味シビアでもある。。でもすごく優しくて可愛らしくて、難儀であっても愛しさで満ちた気持ちに、悲しくない涙が溢れてきました。自分の性のあり方を後回しにしてでも、愛する人のためにここまで決心できるみみクンは本当にすごいです。多分僕だったらあそこまで言い切れないな。
大好きな人だから、抱きたいって気持ちも抱かれたいって気持ちもあるのは至極当然。もちろんそーでない人もいるし、絶対に一括りにはできないけれど。みみクンと薫チャン自身が世界一幸せと思えることが何よりで、最後はとても嬉しい気持ちになりました。
あーこの作品は何度読んでも泣いてしまうだろうなあ。
本人たちの細かく小さくも、見て見ぬ振りできない大事な感情、心の変化を、こんなにも可愛らしく愛嬌のある作風で描いて下さったはるこ先生に感謝です。先生の作品大好きです。

ところでもう師走ですね〜。2021年が終わってしまうー!はやいな〜。外はもう毎日氷点下…猫っ毛シリーズそろそろ手をつけようかな。
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