雷神とリーマン
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雷神とリーマン

RENA

漫画としての面白さと人間讃歌の奇跡の両立

ネタバレ
2021年12月17日
このレビューはネタバレを含みます▼ 読み終えたとき、きっとこの物語を必要とする人がこの世に確実にいる作品だという思いが湧き上がってきました。
はじまりは、働き過ぎの関西弁リーマン大村が帰宅するとなぜか雷神だという雷遊が部屋の中にいて、自分を人間にしろ、代わりに満足を与えてやると言う。この後のコミカルなやりとりだけでも漫画として充分面白いのだけど、この大村、少し人と違うところがありました、実は彼はゲイだったのです…。
次第に大村が感じている社会的疎外感や家族との障壁が登場してきて、最初の軽快さと、大村の内面のハードさのギャップがそのしんどさを引き立てて、切なさが浮かび上がる。
そんなときの雷遊の振る舞いや、語り…特になぜ人間になりたいと思ったのか…によって、自然とああ人間として、生きているだけで素晴らしいのだな、人は人との関係で苦しんだり傷ついたりしているけれど、人間同士で傷つけ合う必要なんてないではないか…という気持ちが湧き起こってきて、涙が溢れて止まらなくなったのです…。雷遊の言葉が、人間の視点ではないんですよ、本当に神のお言葉のよう…ちゃんと漫画なのに!私の中ではカルチャーショック級の衝撃。決して説教じみてない。漫画だから素直にメッセージを受け入れられて、胸を直撃した。そんな感じ。
同時に、自分は典型的な日本人的な無神論者。それは、信仰を持つことで自分の中の大切な部分を明け渡すことに対する本能的な恐怖があるから。ただ、そんな自分でも迷ったときには、誰かに頼りたくなるわけです。そんなときは、場面ごとに、あの人ならこういうときどうするだろうか、と考えて判断の一助にすると、最後は自分で決断することで少し客観的に考えられる気がしている。この自分の内心の友に雷神の雷遊を加えたら、きっと自分に染み着いた常識とか一般的な価値観から離れた視点を持つことができるのではないかしら。それって、きっとこの社会の中で個人の尊厳が損なわれていると感じている人、生きづらさを感じている人にとって、救われた気持ちになることではないかしら…と読み終えたとき思ったのです。
あんなに目の下にクマを作っていた大村が雷遊と一緒にいることで生まれ変わったようにいい顔をするようになったのも、同じ理由からのように思えて。
読んだら人におすすめしたくなる作品です。おススメに従って良かった!試し読み、無料版で面白そうと思ったら是非一読を!
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