臆病者に花束を
」のレビュー

臆病者に花束を

井ノ宮みや

臆病者があきらめずに掴んだ一生物の恋

ネタバレ
2022年1月29日
このレビューはネタバレを含みます▼ 繊細で優しい空気を感じる美しい表紙絵の雰囲気を裏切らない、とても素敵なお話でした。作者様デビューコミックスだそうです。
大学院生の天才ピアニスト・墨染と花屋でアルバイトをしている大学生・馨。
馨が駅で墨染にぶつかり大切な楽譜を汚してしまった事をきちんと償いたいと日々謝罪に訪れるうちに、墨染が馨に興味を持ち・・とお話が始まります。

過去の経験から人との距離を敢えて取っている寡黙でマイペースな墨染と、明るく素直な性格だけれど、自身のセクシュアリティを隠し自分を偽り続ける事に慣れてしまっている馨。
普通であれば何の接点もなかったであろう2人が、互いを知る毎に、心の隙間を癒すように埋めるように優しく作用し合う関係に変わっていき、嬉しさや戸惑いを感じながら少しずつ惹かれ合っていく過程が丁寧に紡がれていきます。
ちょっとした表情や仕草に感情を乗せるのがとてもお上手で、それぞれに恋心が芽生えきているなぁと伝わる描写に頬が緩む事も多々。

想いが降り積もり大きくなるのと比例して不安も増し臆病になりながらも、たとえ傷付いてもこの想いだけは・・と思えるまでの過程に胸がじんとします。
そしてついさっきまでステージで優雅にピアノを奏でていた人からそんな言葉がでてこようとは笑
私的に墨染が最初の印象からけっこう変わってる所が1番好きで、こういうのツボなんですよね。
その流れからのエチはページ的には短めなのに、墨染が色っぽくて私も馨と一緒にドキドキしました。
きっと墨染はもう馨を手放せないだろうし、描き下ろしでも感じますが溺愛路線まっしぐらでしょうね。
表紙絵に散りばめられた金木犀の花びらも素敵で、馨の花束の綺麗な色合いが見られたのも嬉しい。あとがきの馨たちの名前の由来を読んでも、先生のこの作品への思い入れの深さを感じます。

同時収録のお話は、孤独な染色作家が元気なワンコに絆され心を開いていくお話でこちらも良かったです。
ドラマチックな展開を楽しむというよりは、惹かれ合っていく心情の変遷と、自身との葛藤や変化を望むまでの過程を繊細な心理描写と共に大切に追っていくお話で、私は大好きでした。また次の作品も楽しみにしています!
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