イノセントを穢すキス【単行本版】
」のレビュー

イノセントを穢すキス【単行本版】

五月女えむ

アンビバレント

ネタバレ
2022年6月9日
このレビューはネタバレを含みます▼ ファンタジーであり寓話的でもあり、熱も涙も内包した愛憎交々を見事に表した作品です。
それを1巻で見事に収束した傑作だと思います。
攻めオンブラが、憎みながらも愛を自覚するシーンが中盤の大きな山場となります。
そこまでを読むだけでも良くできた作品だと思いますが、2人が平穏無事に愛し合うまで、まだ道は遠いのです。
さて、キーマンは王子シリウスの友人のムートです。
余命が知れた彼がこの物語に重さを与えています。
その為人はかなり捩れていて決して善人ではないのに、シリウスにとってはものすごく良い友人です。
読み手的にはどこに感情を沿わせるかによって相反する感情を抱いてしまいます。
また、オンブラがあたかも天使のように崇め愛するシリウスも、実は周りの大人によって飼い慣らされた「無垢な無知」だったという作者さまの意図があります。
そんなシリウスを、オンブラは憎み続けた反動で、観念的な美の極限として捉えているように見えます。
何もかもが全てシリウの為、シリウスにとってもオンブラの為というお伽話的な美しさの中に、悲惨な過去と両思いを確認してからの容易ではなかった数年があるわけです。
描かれている光とたやすく想像できてしまう闇が、矛盾となり撞着語法のように効いています。
だからこその傑作だと思います。
いいねしたユーザ20人
レビューをシェアしよう!