ロマンティック上等
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ロマンティック上等

森世

遠回りしても、消えないガラスの靴を携えて

ネタバレ
2022年6月11日
このレビューはネタバレを含みます▼ 171ページ。
シャルル・ペローのシンデレラは、最後に自分の意志でガラスの靴を履かせて欲しいと申し出て更に自分が持っていたもう片方のガラスの靴を証明として取り出すわけですが。それと同様の「自分から幸せを掴みに行くシンデレラ」、それがこの作品だと思います。
あの日保健室で次継のところに置いてきたガラスの靴の、もう片方を携えて。
運命に喧嘩を売るようなタイトルも秀逸。ロマンチック!

次継の一途ぶりは王子にふさわしかった。
計の行動も、発情期をどうにかしたいという以外は、すべての根っこに「次継と一緒に居たいから」というのがあるのがもう、切ない。番に憧れるのも、早く番を作りたいのも、なかなか番を選ばないのも、矛盾したワガママのように見せかけて全部たった一人の次継が居るからこその純情ですよ。中盤でシャワーに打たれながら呟く一言、もうギリッギリに心臓を締め付けられました。
そしてクズだなんだと酷い言われようの駅人ですが、このキャラクターを描けるのが、この作者さんの魅力ですね。私的解釈では、駅人はクズと言うより光源氏に近い。α階級に生まれたがための庶民には理解できない殿上人っぷりや、複数に手を出すと同時に生活の面倒はきちんとみる辺りが。わざわざΩを集めるのも、ほとんどあきらめているけれど「たった一人の誰か」が欲しいからでしょう。いつか本当の「特別」を手に入れられることを願わずにいられない。あと、社会的地位の低いΩを集めて生活の保証をするという構図が、富裕層の義務としての一夫多妻の役割を担っていて、設定の妙を感じました。
商業オメガバース、最古参にして最高傑作だと思います。
〜〜〜〜〜
さて、オメガバ設定は作者の裁量に任される部分が多い中、ふゅーぷろオメガバースはかなり詳細な共通設定があります。細かくて流しがちですが、今作では物語に余す事なく活かされているので、一度しっかり熟読することをおすすめします。
特に他社と差があると思う設定が、以下。
「人類が全員、両性具有状態である」というところで男性同士の社会的生物的葛藤面(及び男性妊娠という特殊性)が無くなり「Ωは月イチの発情期で働きづらい上に生殖能力が低い」というところで抑制剤が開発されるまでにΩの社会的地位が低くなった理由が納得できます。
これらの設定のおかげで、ふゅーぷろのオメガバは「階級差ドラマ特化型」として楽しめてます。
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