アンチロマンス
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アンチロマンス

日高ショーコ

「これは私の話」だと思わせるスゴ技よ!!

ネタバレ
2022年10月28日
このレビューはネタバレを含みます▼ 「大きな事件」も「生死を分ける運命的なこと」も起こらないお話なのに読み終えた時にドキドキが止まらず切なさでいっぱいになり下腹がキューってなってしまいました。
これは私のお話だと感じてしまったからでしょうか。先送りの人生に甘んじ自らは積極的に変われなかった、その自責の念を晴らしてもらえたかのようでした。

長い膠着状態から脱却するのってすごいエネルギーとパワーが必要で。
そもそもその状態を片方は壊したいし片方は維持したいわけで。
壊したい方はそれはそれは辛くて苦しくて、でも壊れてしまったら一緒に居られなくなる可能性が大きいから行動に移せません。
この幼馴染みBLによくある設定を細やかにリアリティを以って1巻が描かれています。居心地の良さと報われない思いと2人の間だけの甘さと確かにある熱が、こちらの身の内に充分に刷り込まれるほどの丁寧さです。

そこに2組の大人たちによる作用で孕んだ熱が煽られ、また普通でいる難しさと解釈違いを自覚し、あのとてつもなく凝り固まった膠着の塊がゴロリと動き出します。先送りの気持ちに決着をつける時です。

昔から互いに特別だと思っていても、そこに熱の他に色はあるか無いかが大事。
大概は片方若しくは両方に色が存在せず「親愛や信頼で終わる」。その例が件の2組の大人たちです。

かくして2人ともに色を自覚し恋の結実を迎えるのです。
かつては呼んでいただろうに長いことできなかったヒロくん呼びがいっそう涙を誘いました。

今作はわかりやすい思いだけで動くキャラはいません。まるでリアルの人が様々な感情で右往左往しているかのようです。それぞれの割り切れない気持ちの行方が本当に切ない。
くっついた2人よりも結実しなかった大人たちのための物語だったのではないかとさえ思えました。

日高先生の作品で毎回なのですが、モノローグも吹き出しも無いアップ顔のコマで必ず目を止め、何を思い何を感じているのかと考えてしまいます。
不思議と相反する両極端を想像でき、都度こっちの場合はこういう流れ、あっちの場合はああいう世界観と勝手にお話の広がりと深みを感じてしまいます。
いずれも恋が結実するその一点に向かっての想像ですが、気持ちの紆余曲折をすごく楽しんでいると気づくのです。

修正は白抜き発光体です。
そしてリバ!本当に嬉しかったです。
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