わたしは壁になりたい
」のレビュー

わたしは壁になりたい

白野ほなみ

この関係を何と名付けたらいいんだろう

ネタバレ
2023年1月25日
このレビューはネタバレを含みます▼ これまでに読んだことのない関係性を描いた作品で、これからどう転ぶのかわからない。でも、人の多様性を知りたいと思う自分にとって、新しい気付きとたくさんのトキメキを与えてくれる新感覚の作品だ。

物語は、アセクシャルで、リアルな人間相手だと友情とそれ以上の感情との区別がつかないゆり子と、幼馴染のノンケの庭師に長年片想いしている岳朗太が結婚するところから始まり、次第にそうなるに至る道のりが明らかになる。いやー、このゆり子の視線や立ち位置がね、腐女子の代表のようで、共感できるところも沢山あるいい子で。なのに、やっぱり世間の言う普通と違うことで悩んできた過程が、腐女子仲間である分共感できるんです。そして、1巻第5話には岳朗太と、片想い相手の草介の出会いと、苦しくて切ない気持ちが描かれて、あ、いつも読んでるBLならこうはならないのに…というところで、もう心臓がギューッと苦しくなって。その回想を語る岳朗太が横にいるゆり子と交わす約束。ああ、お互いがお互いの安息地になっていくんだろうか。そんな関係を何と呼ぶんだろう…

私は読み始めた当初から、人間に恋愛感情を抱けないゆり子が、どうして恋愛ものであるBLが好きなのか、その感覚が分からなかったのだけれど、そのことが描かれた2巻の11話も、自分だけでは気づけない感覚が伝わる話で、なるほど、そういう見え方、感じ方があるのか、と新鮮な気付きが。世界の見え方が広がる感覚を味わいました。最近、レビューしたある小説と近いテーマをもっと柔らかく描いたいい作品だなぁ、と思ったのです。
他にも多様な性的指向を持った魅力的な登場人物が現れて、これから物語がどう転ぶのか、ホントに読めない。草介含め。この2人は多分お互いを性的な目で見ることはないんだろうと思う。だからこそ居心地の良い関係なのではないかと。性欲を伴わないマイノリティ同士だからこそのお互いを尊重する姿が、もの凄く尊く見える。自分には見えていないだけで、実はこういう関係性の夫婦っているんだろうな。
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