葬送のフリーレン
」のレビュー

葬送のフリーレン

山田鐘人/アベツカサ

1000年生きても心を育むスベはある

ネタバレ
2023年9月30日
このレビューはネタバレを含みます▼ 大人が読むに耐え得る異世界ファンタジーにはあまり出会えませんが、その中でも読んで面白い!と感じる作品は特に稀少ではないでしょうか。
本作は確実に感情を揺さぶり、読み手の様々な記憶に呼びかけてくれます。
最近流行りの後日譚もの。と言うか本作が人気なので後日譚を書く人が増えてきたのかも?
いちいち全部を説明したり、わざと誇張したりするような下品な表現はありません。その点で言うとテレビ版的ではなく劇場版的であり、直木賞ではなく芥川賞っぽいです。静かに語りかけつつ人や世界の悲喜交々に導いてくれます。
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後悔から始まるフリーレンの新たな旅を描きながら、過去の魔王討伐のエピソード・思い出も描かれています。くだらなくて楽しく温かな思い出ですが、当のフリーレンはそこに居るのに輪の外から眺めているように見えます。共に体験しているのに仲間と同じ感情が得られない。エルフと人間の感覚の違いが哀しいです。
でも「何も知らない」と言い切ったヒンメルのことを、些細なエピソードまで憶えているんですよね。
記憶の中のヒンメルを行動の指針としている。
当時解らなかったメンバーの気持ちや師匠の思いをフリーレンが理解できた時には何度も感動しました。それが今のパーティメンバーの優しさのおかげだったりして、さらにグッときました。
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エルフの寿命の長さ、平和になったと言えども人間の命が失いやすい世界。人間、エルフ、魔族の根本的な違い。等々の異世界設定を通して、心に強く訴えかけてくる優しさにじんわりと涙します。
「葬送」の二つ名で呼ばれるフリーレンが切ないです。

また、苦しい展開や生死に関わるキツいお話も、度々挟まれる抜け感のあるギャグが緩和してくれます。温かさから生まれる笑いがステキです。

そして魔王を倒した4人のキャラと空気感がとても良いです。4人ともすごく強いのに完璧じゃなく、どこか抜けています。特に勇者ヒンメルがたまらなく魅力的です。

いろいろ書きましたが、なんだかんだ言っても素直に自然体で楽しんで読むのが一番良い気がします。
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