ゆうづつは藍にとける
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ゆうづつは藍にとける

青井秋

明治の書生たちの恋への真面目さ真剣さ

ネタバレ
2023年12月31日
このレビューはネタバレを含みます▼ 戦前の恐らく明治を舞台とした書生たちのお話。久世慎太郎が下宿先の谷塚家に帰って来ると、そこには2年前から下宿している学生•葛木章吾がいました。文学を志す二人は谷塚先生の家に下宿して書生として生活しながら文学の研鑽に励みます。美しい容姿に繊細な内面を持つ久世は、粗野かと思えるほど明るく真っ直ぐな葛木とは相容れないと感じています。その久世も、親が無く施設で毎夜弟に語って聞かせていた名残りだと、葛木が日々書き上げる大量の文章の熱量に圧倒されるのでした。一方葛木は学校で3年前の卒業アルバムを見つけ、その中に写っている久世がいつも同じ友人といること、その屈託のない笑顔と、一貫して寂しい久世の作風を不思議に思うのでした。たった一人の病弱な弟のために常に笑顔で物語を語る葛木に久世は惹かれ、葛木もまた薄明るい夕空に輝く一番星のような孤独で凛然とした久世に引きつけられてゆきます。明治時代の灯りの少ない広々とした夜空に輝く金星に、細やかに描かれる草花とその情緒ある和名が背景で良い効果をあげています。小細工無しのストレートな恋物語ゆえに、当時の空気感がダイレクトに伝わってました。
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