ファミレス行こ。
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ファミレス行こ。

和山やま

嵐の前の静けさ。なのに胸がざわめく

ネタバレ
2024年1月14日
このレビューはネタバレを含みます▼ 大爆笑だった「カラオケ行こ!」の続編だー!とウキウキして読み始めて秒でフリーズしてしまった。だって、本作の舞台が自分の元生活圏内の大田区蒲田とは知らなかったから。頭の中に「?」マークが浮かぶ中、和山先生がむちゃくちゃ高い画力であの駅前のビルを描くのに驚きながらも、駅前の広場で狂児と岡君が待ち合わせをし、あの店で空芯菜や焼肉を食べて、岡くんがあのファミレスでバイトする様子がもの凄くリアルに思い起こされ、これまでの作品とは違う解像度で実際に岡くんと狂児の物語が始まっている感覚にゾクッとする。
なぜ、和山先生が蒲田を舞台に選んだのかは分からない。この作品は、大学生になった岡くんが大人になる瞬間を描くのだろうと思っていた自分にとって、大阪出身で純粋な岡くんが、清濁併せ持った、何が起きても「まあ、蒲田だからね」で済んでしまう街で大人になっていいんだろうか…という気持ちが湧いたのが正直な気持ちで。

でも、前作の萌えポイントは、中学生だった岡くんが、ヤクザの狂児という知らないタイプの大人と関わることで、自分も知らなかった感情を引き出されて大胆な行動に出てしまったり、という青春の衝動を描いたところにあったんだった。岡くんは、もう歌わないし、以前ほど毒づかなくなって大人に近付いている。でも、「狂児」って書いた貯金箱に一生懸命バイトした金を貯めて、狂児の腕に組長が入れた「聡実」の刺青を取るプレゼントをしようとして、結局いつも狂児のことを考えてしまってるんだよねえ(萌)。狂児が岡君の言う通り好きなものを嫌いと言って岡君の名前をほり、それが2人の関係の象徴となってしまったが故に。
岡くんは、サイゼの絵のシミのように、狂児がどうやっても心から消えてくれない大きな存在になっていることを自覚していると思う。だからその象徴となっている刺青を消したいんだろうなぁ。でもまっとうな社会人になることが本当に自分がしたいことなのか、狂児に出会って価値観が変わった中学生の頃と同じように葛藤してるんだと思う。

上巻は、下巻で起こる嵐の前の静けさの味わい。でも終盤、岡くんが取った大胆な行動に腐の心がざわめく。何が起きてもおかしくない街蒲田。狂児には、いたいけな男子の心を掴んだ責任をきちんと取って欲しい。映画もすごく良かった。そちらの感想は、カラオケ行こ!のレビューに書いたので良ければお立ち寄りを
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