金の絵筆に銀のパレット
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金の絵筆に銀のパレット

ARUKU

読み返しの涙止まらず

ネタバレ
2024年9月6日
このレビューはネタバレを含みます▼ 小さく、まあるい虹色のARUKU先生の世界に、手を伸ばし触れてみるような読書体験でした。

桃花のようにチャーミングで気立ての良い桃里が持つ、命の赤と穢れのない白。破れ傘の如く透き通る優しい心でなんでも人と分け合いますが、唯一分け合えなかったのは戦禍での伯母や仲間たちの死。色にあふれた美しい世界で、生きていて申し訳ないと語る姿は辛く哀しいです。
一方の烏羽さんが持つのは、梔子をも染める黒と海軍航空隊には死地の青。戦後間も無く事業を広げる姿は、忌み嫌われながらも賢い鴉のよう。図らずも死地から生還した彼にとって、色を探す旅に出ようと語る天真爛漫な桃里がどれ程の救いとなっていたか。キスすら大ごとな時代での、道理を捨てたキラッキラな恋が眩しいです。

喋るカエルや意地悪な床下、不思議な庭も素敵です。林檎の木のもと紙吹雪で祝福された誓い合いは美しいのひと言。傘で隠れた伯母の微笑みも、仲間たちの8月の海も、素晴らしく優しいものでした。
そして、ずっと一緒だと確かめる時に見せる桃里の笑顔。可愛くて幸せでいじらしくて、こんな気持ちになる愛の場面は初めてでした。儚く美しい瞬間を、たくさん閉じ込めたような作品です。
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